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湘南のロボネコ 迷える宅配を救えるか

湘南のロボネコ 迷える宅配を救えるか

 ヤマト運輸は4月17日から自動運転による配送サービスをめざす実用実験を始めた。その名も「ロボネコヤマト」、レモンイエローと黒の愛らしいデザインのミニバンを使う。いつでも、どこでも荷物を受け取れる究極のピンポイント宅配を可能にした。今はドライバーが運転するが、自動運転走行を視野に入れている。増えすぎた荷物に人手が追いつかない繁忙に悩む宅配業界。泣いてばかりもいられない。「ロボネコ」は迷路に入り込んだ現場を救うのか。運用からちょうど1か月、奔走を追いかけた。

 鵠沼海岸(神奈川県藤沢市)近くのマンションの道端に「ロボネコ」がやってきた。広瀬志穂さんはスライドドアを開けて、タッチパネルにスマートフォン(スマホ)に届いたQRコードをかざす。ロッカーが自動で開き、ネット通販で買った化粧品を路上で無事に受け取った。時間はみずからが指定した午前10時半ぴったり。「利用は2度目。コンビニに行くついでに来てもらった」(広瀬さん)

地元のスーパーや飲食店とも連携

 ロボネコは電気自動車(EV)。荷物にあわせて大小8つのロッカーがあり、そのうち2つは冷凍・冷蔵にも対応する。藤沢市の鵠沼海岸1~7丁目、辻堂東海岸1~4丁目、本鵠沼1~5丁目を対象にし、世帯数で1万2000、人口約3万人。宅急便と同じ午前8時~午後9時であれば、10分単位で受け取りを選べる。01号、02号、03号の3台が稼働する。

「ロボネコヤマト」では愛らしいデザインのミニバンを使う

 「宅急便」のように荷物を届ける「デリバリー」に加えて、「ストア」と呼ぶサービスがある。地元のスーパーや飲食店の商品をネットを通じて買え、どんな場所にも届ける。日用品、果物、野菜、パン、菓子やピザを購入できる。

 サーファー通りにある「minami curry(ミナミカレー)」のバターチキンカレー(780円)を注文した。手数料が324円かかり、3000円以上で無料となる。注文時、地図にピンをタップすることで、エリア内ならのどこでも受け取り場所となる。どちらの歩道に寄せてもらうかも選択できる。ミナミカレーから3キロメートルほど離れた八部(はっぺ)公園を選んで注文完了。この時が午前11時20分。ほぼ1時間後の12時半に配達してもらうことにした。

 記者が公園で待っていると3分前に携帯電話が鳴り、自動音声で到着をあらかじめ伝えてくれる。ドアを開けてスマホに送られてきたQRコードをかざすとロッカーからホカホカのカレーが出てきた。出前感覚。ミナミカレーの南智美さんによると「テークアウトもあるが、雨の日には便利に使ってもらっている」。地域の店舗にとってビジネスチャンスが広がる。

 今回はディー・エヌ・エーと組みシステムを構築し、2018年に一部のルートで自動運転にも取り組む。「自動運転になるからといって、人手不足がすぐに解消するとは思ってない」(ヤマトの畠山和生情報ネットワーク戦略課長)。それでもピンポイント配送だからこそのプラスがある。時間や場所を細かく決めることは、業務スケジュールを予測し、緻密に管理できることになる。スタッフが持つタブレット端末には、出発時間や配送ルートが示される。その通りに動けば、10分刻みのデリバリーやストアのサービスを提供できる。

 有人運転であっても、単なる動く宅配ロッカーでない。「考えさせない。カンコツ(勘やコツ)に頼らず配送できる」(畠山課長)。習熟度をそれほど気にせず人材を獲得でき、高齢者を含めて新たな雇用機会を増やせることを期待する。もちろん課題である再配達を減らせている。

自動運転を想定したサービスに

 作業負担は軽くなっているのか。「ロボネコ」のスタッフを観察していると、一般的なセールスドライバーと大きな違いがある。スライドドアやロッカーを開けたり、荷物を手渡したりしない。運転席からいちおう降りるが利用者を見守るだけ。不慣れな利用者のためにサポートに徹する。コミュニケーションを避けているわけでない。「あくまでも自動運転を想定しており、作業は最小限している」(畠山課長)

 「サービスが先、利益は後」を企業理念としてきたヤマト。足元で広がる苦境は過剰ともいえるサービスに押しつぶされた面もある。「ロボネコ」は先端テクノロジーを駆使するとともに、業務の一部を顧客にも担ってもらうサービスでもある。それでも、利用者は自分の都合にあわせ確実に荷物を手にできるメリットがある。ヤマトは昨年、実用実験のスタートに向けて、エリアごとに複数の説明会を開いて理解を求めた。今は「ロボネコ」見たさの利用者もいて、地域の人気者になりつつある。

 事業者と利用者とのあいだの関係や距離感、さらにサービスの便益や対価をどう分けるのか。湘南を快走するロボネコは、サービス業界全体が問いかけられる新たな風波を感じさせる。
(映像報道部 森園泰寛)[日経電子版2017年5月18日付]

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