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お悩み解決!就活探偵団2018内定インフレ時代
辞退防止へあの手この手

authored by 就活探偵団'18
お悩み解決!就活探偵団2018 内定インフレ時代辞退防止へあの手この手

 6月1日時点の内定率(内々定を含む)は、63.4%――。6日に発表された数字(ディスコ調べ)だ。1日は大手の面接が解禁されたばかりだが、すでに5人に3人が内々定を得ている計算。ただ、内定乱発のツケは必ず返ってくる。学生からの「内定辞退」だ。企業は戦々恐々として対策を練っている。

「内定を出した後が勝負」

イラスト=篠原真紀

 「6月1日が面接解禁と言われても実感がないんです」。大手の面接が解禁された1日、東京・西新宿であった都内私立大の女子学生は笑顔で答えた。この日までに、大手通信会社2社から内定をもらったという。「1日は、(内定受諾の)最終意思確認のところが多いです。まだ辞退していないので、どこにいくかこれから悩みます」

 製薬会社を中心に就職活動をする私立大学の女子学生は2社から内定を獲得した。内定承諾書をもらったが、「提出するかどうかはあなた次第」といわれたという。1社はインターンシップにも通い、社員の対応もよかったため断りづらい。「なるべく早く決めないといけないと思うが、本当に難しい」

 「この企業が第1志望なので、ほかの会社の内定をどう断ろうか悩んでいる」(大手生保から内定を得た私立大男子)――。就活探偵団は1日、14人の記者を動員して100人以上の就活生を取材したが、やはり複数内定を持っている学生に多く当たった。ディスコが発表した「5人に3人」というのは肌感覚にも合う数字だ。

 もともと学生優位の売り手市場に、選考の短期化が拍車をかけ、企業は内定辞退を見越した多めの内定を用意。この結果過去に例がないほどの内定インフレが起きている。

 「内定を出した後も勝負は続く」と語るのは、金融大手の人事担当者だ。金融は就活生の人気が高く、優秀な学生も集まりやすいとされる。だが、この担当者の不安は消えない。「面談のたびに入社する意思を確認してきたが、何の拘束力もない」からだ。内定辞退を抑えるために、企業はどんな手を打っているのか。

お互いを理解するまで面接

 ヤフーのクリエイター人財戦略室戦略部部長の金谷俊樹氏は、「内定を得てから行きたい会社を選ぶのは不自然だ」と話す。同社も、すでに複数の学生に内定を出しているが、内定辞退を見越して、水増しして出すことはしていないという。選考過程で極力ミスマッチを減らし、内定を出した学生がほぼそのまま入社する、「相思相愛になるようにしている」と話す。

6月1日に探偵団が接触した就活生の多くが、複数の内定を獲得していた

 採用面接の回数は学生によって変えている。「学生がヤフーを理解し、ヤフーが学生を理解する時間は人によって違う」からだ。まるで新サービスのユーザー調査のように、模造紙に付箋を貼って、両者の志向を擦り合わせるのだという。6月以降、ライバル他社の内定も増えているが、「内定辞退がないように、入念に設計している」と自信ありげだ。

 サイバーエージェントの採用も丁寧だ。新卒採用責任者の小沢政生氏は、2000人くらいの学生とフェイスブックでつながり、就活の相談を受けている。内定後、学生に「広告市場の今後」といった実践的な宿題を出し、考えてもらう。とはいえ、内定辞退はある。同社の場合、会社の知名度が上がってきたため、これまでは競合になりえなかった商社や銀行などと比べて入社を検討する学生が増えているのだという。親に話すと、商社のほうがよいといわれ、学生が悩むケースもある。そういった場合は積極的に学生に会い、事業報告書を見せながら事業の内容を説明しているという。

 ある大手シンクタンクでは、選考中にほぼすべての学生にリクルーターをつける。リクルーターが学生と接していて、優秀だと感じても、社風にあわずに内定を辞退したり、早期離職する可能性がある。そう判断すればその時点で、不採用にすることもあるという。内定者の数を確保するより、早期離職のほうが影響が大きいと考えているからだ。一定の費用を使って採用活動するからには、入社して長く働いてもらわなければ、費用を回収できない――企業経営上、当然の考え方といえる。

選考解禁後ろ倒しで辞退急増

企業の規模によって、内定辞退の影響は異なる

 大手の場合はまだ内定辞退の影響も軽微だが、中堅・中小は影響が大きい。リクルートワークス研究所(東京・中央)によると、従業員5000人以上の企業の求人倍率は0.39倍。1000~4999人だと1.02倍。さらに300~999人は1.45倍、300人未満となると6.45倍とその差は如実に表れる。

 人材紹介を手がけるある中堅企業の場合、入社するのは内定を出した数の半数ぐらいだった。昨年から内定者をフォローする専用のリクルーターをつけている。任務は「純粋に内定者と仲良くなる」こと。正規の人事担当者には「入社する意思が強い」と伝えている学生でも、実は悩んでいて言いづらい場合が多い。こうした悩みをすくい取る。

 インターンシップなどに参加して、入社することが確実な学生には、他の内定者の情報をもらっている。たとえば、LINEでどんなやりとりがあるかなどを教えてもらう。辞退者が1人出ると、連鎖反応のように辞退者が増えることを防ぐためだ。内定承諾書も、本当に意思を確かめてからしか出さない。こうした取り組みで、内定辞退は5割から3割に減ったという。

 首都圏にある中堅銀行の採用予定は10人程度。採用担当者は、「当行のような規模の会社では内定を辞退されるととにかく痛い」と話す。大手の面接選考開始が4月だった3年前までは、内定辞退はほとんどなかった。大手と選考が重ならなかったためだ。だが後ろ倒しとなった15年以降、辞退率が上昇。昨年は3割弱が内定を辞退した。

 対策として面接の合間に複数回の「面談」をはさみこみ、本気で入社する気があるかを人事部が確認をしてからでないと、次のステップに進めない形式をとった。人によっては5~6回の「面談」を実施することもある。今年も意思確認を徹底してから内定を出していくという。

辞退する学生の傾向

 交流サイト(SNS)を内定辞退の減少につなげようとする動きもある。EDGE(東京・千代田)が販売する内定者フォローSNSの「エアリーフレッシャーズ」は、内定をとった学生に指定のSNSを登録させて、内定後のコミュニケーションを図る。

 過去のデータから辞退した学生の傾向を分析し、辞退する可能性が大きい内定者を選び、人事担当者に知らせる機能がある。同社の佐原資寛社長は、「辞退する可能性が大きいのは、たとえばプロフィルの書き込みが少ない学生だ」と指摘する。SNSを内定者の自主性にまかせて運営すると、輪の中に入れない学生が離脱してしまう危険もある。このため人事担当者が、密接にコミュニケーションを取ることが大事だという。同社の調査によれば、内定辞退は6月をピークに9月まで続き、卒業直前の3月も多い。学生の本音を知るには、円滑なコミュニケーションが欠かせないようだ。

 就活生から見れば、それでも内定辞退は避けて通れない。ハナマルキャリア総合研究所代表の上田晶美氏は「意思が決まったら、速やかに辞退をするのがマナー」と指摘する。採用は学生にとっても人生の進路が決まる一方、企業にとっても、将来の業績を左右することになりかねない極めて重要なことだ。

 人材派遣大手から内定を得たある男子学生は、「就職活動をしているときは、他社の選考状況や志望意欲はできるだけ素直に伝えた」と話す。真剣に採用活動をしている企業にも最低限の礼儀だと思ったからだ。辞退の連絡をする際も、おわびの気持ちや辞退理由も素直に伝えた。リクルーターの社員にも直接会いに行き、辞退を伝えおわびしたという。

 採用活動には多くの人が関わる。その人たちの業務を円滑に進めるようにするのが、社会人への第一歩だ。
(斎藤公也、鈴木洋介、松本千恵、桜井豪)[日経電子版2017年6月8日付]

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