日本経済新聞 関連サイト

OK
career-働き方

性格は良く見せられるか
就活の適性検査にトライ

性格は良く見せられるか就活の適性検査にトライ

 大半の企業が採用活動の前半戦で実施する適性検査。学生にとっては「最初の関門の1つ」になるケースも少なくない。なかでもリクルート(現・リクルートキャリア)が開発した適性検査「SPI」は、約12400社が導入する代表的なツールとなった。学生たちは、就職活動に向けて「SPIの対策本」を購入、関門の突破に挑む。今回、記者が10数年ぶりにSPIを受験。結果を見ながら、SPI開発責任者のリクルートキャリア・山崎淳執行役員に話を聞いた。

性格検査は面接官に渡される「支援資料」

 リクルートが創業の翌年から適性検査の開発に着手。何度かの修正を重ね、今の形式である「SPI」が1974年にスタート。受験数は年間のべ198万人におよぶ(2017年実績)。適性検査は、ほかにも玉手箱(日本SHL社)などいくつか種類がある。

 SPIは、性格検査と能力検査の2つに分かれている。能力検査はさらに、言語能力を見る国語的なものと、論理的思考力を見る数字を使ったものの2つに分けられる。

SPIは「能力検査」「性格検査」の2つに分かれる。今回、記者は「性格検査」を体験した

 「面接の前の合否判断は、多くの企業で能力検査の結果によるもので、偏差値として成績が出ます。一方、性格検査は面接の支援ツールとして使われるケースがほとんど」(山崎氏)

 企業によって、能力検査の合否基準は変わる。人気企業であれば、面接で会える人数が限られるので必然的に合格基準が高くなる。今回、記者が受けたものは2014年から使われている、新しい形式の「SPI3」の性格検査だ。質問は全部で約300問。テスト結果は本人も通常見ることはできないが、今回は見せてもらった。

 使用する用途にあわせて「入社予定者・社員用」「面接支援報告書」「育成支援報告書」の3種類がある。このうち、面接の資料として手元に渡されているものが、「面接支援報告書」だ。「人との接し方」「課題への取り組み方」「ベースとなる特徴」の3項目があり、性格の特徴が記されている。結果をもとに、受験者の性格を知る上でよさそうな質問項目が並ぶ。

リクルートキャリア HRアセスメントソリューション統括部 山崎淳執行役員

 「面接って、案外何を聞いていいのかわからないものです。志望動機と、学生時代に力を入れたことをとりあえず聞いて、後は何を聞けばいいのかな、と。そこで、面接官向けにその人らしさを知る上で確認したらいいのでは、というオススメの質問を書いています」(山崎氏)

 ちなみに、報告書のなかで「基本的な特徴」として記者に書かれていたのは、「対人面の繊細さ」。この特徴を受け、「周囲と意見が合わず苦労した経験」など、人間関係のあつれきへの耐性を問う質問が並んでいた。記者の場合、第三者からは「明るく、大ざっぱな性格」とみられがちだが、確かに繊細な面はある。

 実際、受験中に「どちらが自分なのか」悩む質問項目も多かった。正直に山崎氏に伝えたところ、「成長過程で変化した特徴もあります。無邪気だった人が擦れてしまうような。しかし、我々が見ているかぎり、特徴のでこぼこが変わっても、別人になるようなことはない」という。

「ウソをついたことがない」?

 性格検査の答え方は、就活生のなかでよく話題になる。特に、「企業側の求める人物像」に合わせたほうがいいのだろうか、「明るい人」「ウソをついたことがない」といった一見良さそうな性格を答えるべきか、という悩みは尽きない。実際、見抜かれてしまうのだろうか。

 山崎氏は、「回答上に矛盾が出てきたり、たとえば『ウソをついたことがない』と答えたりした場合、社会的によく見せようとしているのではと検証され、他の回答全体もよく見せようとしている可能性がある、というチェックが入ります」という。しかし、本当にウソをついたことがない、という可能性もある。

 「重要なのは、あくまで傾向を示している、ということです。特に強く出ている特徴があれば注目するが、そもそも正解を出すものではない」と山崎氏。企業側が間違いやすい理由もここにある。能力検査のように、「性格検査の特定項目が高いからよい」と判断してしまう場合があるそうだ。

 「就活生も、性格検査を就職試験として受けてしまうと弊害が生まれます。内定はゴールではなく、入社後に生き生きと働けるかが重要なので、ありのままで受けてほしい」(山崎氏)。

SPIの受験画面(リクルートキャリア提供)

 最新の「SPI3」から導入された新機能は、受験者の周囲や組織とのかかわり方を示す指標だ。近年、特に企業側が問題しているのが早期の離職。企業側の要望があり、SPI3には、配属先を決める上でも活用できるこの指標が追加された。

 「組織への適応性」の傾向が反対の上司と組んだ社員は、やめる可能性が高まる、という。ある企業は、新入社員だけでなく、配属先の社員にも性格検査を受けてもらい、配属の際に活用しているそうだ。

テストセンター受験のカンニングは...

 なんとかして選考に進みたい学生にとっては、能力検査対策も悩ましい。しかし、何冊もやりこめば成績があがるわけではないそうだ。「短期間で何冊もやったからといって、劇的に思考能力や言語能力が上がるわけではありません。慣れの問題で、正解数が2~3問増えることはあるかもしれませんが」(山崎氏)。

 カンニングも同様だ。SPIは、マークシート、自宅で受けるウェブテスト、指定の会場で受験するテストセンター受験の3種類の受験方法がある。大手企業はテストセンターでの受験が多いが、隣の人と同じ問題を解いている確率は非常に少ない。

 「何千問もの問題がデータベースにストックされています。個人の進み具合に応じて、間違えると優しい問題、正解すると難しい問題、というように一人ひとり問題数も異なります。目の検査と同じです」。隣をのぞき込んでも意味はなさそうだ。

米国で発達した適性検査

大半の企業は適性検査を課す

 SPIはリクルートが開発したものだが、適性検査そのものは米軍などの機関で研究が進んでいる。歴史的に人種を理由に不採用、ということが社会問題になるので、全員同じ条件のデータを使うことが求められたためだ。リクルートキャリアのSPIの開発チームは現在でも、日本の外部有識者に加え、海外の研究者とも組んで作っている。

 今、人材業界で注目を集める、ビッグデータ解析やAIの活用といった「HRテック」分野。先駆けともいえるSPIは、どのように進化していくのか。山崎氏は、より「個人のキャリアを考える上での支援ツールにしていきたい」という。現状、選考過程の適性検査の結果が、学生にフィードバックされることはほとんどない。入社後も同様だ。SPIへの「不安」もここに一因がある。

 次のステップやキャリアを考える上で、ある物差しを使って自己を知り、課題を設定する、という振り返りは助けになる、と山崎氏はいう。一方で、結果の使い方を個人に委ねる危険もある。本来、性格検査は心理学や統計学を修めた専門家のために作られたものだ。「個人での活用をどう進めるかは、今後のチャレンジ」と語る。就活の場で、多くの人が一度は目にしたSPI。今後の行方に注目が集まる。
(松本千恵)[日経電子版2017年6月13日付]

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>