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[ liberal arts-大学生の常識 ]

資格で考えるキャリアプラン(1)国内MBA、人的ネットに魅力

戸崎肇 authored by 戸崎肇首都大学東京特任教授・経済学者
資格で考えるキャリアプラン(1) 国内MBA、人的ネットに魅力

 大学生の就職では学生優位の「売り手市場」が続いていますが、学生にとって資格が自分の価値を高める武器になることに変わりはありません。しかし、資格の位置づけは社会とともに大きく変化しています。この連載では資格を通じ社会の変化と今後を探り、皆さんの中長期的なキャリア形成をサポートします。第1回はMBAです。

 学生の皆さん、MBAという資格(学位)はご存知でしょうか。MBAとは経営学修士(Master of Business Administration)のことで、経営大学院、いわゆるビジネススクールを修了することでMBAホルダーになります。

米上位校に関心

ハーバード・ビジネススクールは1月、都内で「女性リーダーのための経営戦略講座」を開催した

 米国などでは、大企業の経営者や起業家になるための登竜門とされています。特にハーバード・ビジネススクールなどは有名で、トップ・スクールのMBAを取得することは就職・転職市場でも大いに強みを発揮します。ただ、アメリカのビジネススクールといってもどこでもいいというわけではありません。上位にランクされている大学院のMBAホルダーに採用側、ヘッドハンティングの目も行きます。ですから各ビジネススクールは外部からの評価に常に敏感です。

 ビジネススクールでは、学生の側も講義についていくのは大変です。例えばハーバード・ビジネススクールの用いている、いわゆる「ハーバード・メソッド」では、大量のケース(実際の事例に基づいた演習題)を短期間で複数こなしていかなければなりませんので、文字通り寝る時間はほとんどありません。しかも英語が母国語でない人の場合、苦労はなおさらのことです。授業料も相当に高く、留学してトップクラスの大学でMBAを取得しようとすれば数千万円の出費は覚悟しなければなりません。ですから、日本人が海外、特にその本場のアメリカでMBAを取得しようとする場合は企業派遣が主体となってきます。

米留学、私費学生に意欲

 実際、バブル経済華やかし頃の1980年代、日本では銀行などを中心に、若手・中堅社員を海外のビジネススクールに留学させ、MBAを取得させました。しかし、すべてのMBA取得者が派遣元の会社に戻ってから、その会社で評価され、順調に出世していったとは言えません。会社によっては「頭でっかちで偉そうに言うことだけは言うが、汚れ仕事を嫌う」というマイナスの評価がなされることもあり、またMBA取得者の方も、留学中に刺激を受け、やる気をもって帰ってきたのに、旧態依然とした社内の体制の悪さが以前よりもより目についてしまい、外資系の会社などに転職していくというケースが頻出したのです。企業としては、せっかく大金を使って、しかも業務扱いで留学させたにも関わらず、帰ってきたと思ったら転職された、というのではたまりません。したがって、現在、海外のビジネス・スクールに留学しようとする人は、自費で、しかも会社を休職していく場合が多くなっています。それだけリスクを背負っていくので、日本人留学生の貪欲さは以前よりも増しているのではないかと考えられます。

 また、1980年代は日本の企業が世界中で派手な活躍をしていたため、ビジネススクールの側もその秘密を知りたいと、日本からの留学生を積極的に受け入れていましたが、その後日本は長期デフレ状態となり、企業活動も停滞する一方、日本企業自体、留学生を送り出す余力を失ってしまいました。そして、中国経済が台頭し、彼らの関心は中国を筆頭とする日本以外のアジアに移っていき、その受け入れも積極性を欠くものとなりました。

乱立する国内MBA

 これに対し、最近では日本国内でビジネススクールを持つ大学、あるいはそれを運営する機関が「乱立」する状況となっています。また、ネットを通じたディスタント・ラーニング(遠隔教育)で海外の大学と連携してMBAプログラムを運営しているところもあります。

 こうした状況に対して、かつて早稲田大学ビジネススクールで教鞭をとり、そのディレクターまで務められた遠藤功氏は、「結論を言おう、日本人にMBAはいらない」(角川新書)という本を書き、日本のMBAの現状を批判されています。日本のビジネススクールは往々にして、アメリカやヨーロッパの有力ビジネススクールと違って異文化の衝突を体験する機会もなく、実践的厳しさに欠けるとされています。ただ、国内での会社の枠を超えた人的ネットワークを構築する場としては価値があるでしょう。もちろん、この価値の重要性はアメリカのビジネススクールにおいても同様ですが、はっきり言って、日本のビジネススクールは、学生相互間の人的ネットワークの構築こそが最大の価値であると言い切って過言ではないところもあります。要は、グローバルに活躍したいのか、あるいは国内で成功すればいいというのかによって、国内のビジネス・スクールに対する評価は変わって来ると思われます。

 とはいえ、国内のビジネススクールも、アメリカほどではないにせよ、他の大学院に比べれば授業料はかなり高額です。その価値に見合ったものとしてどのようなことを期待するのかを明確にしておかなければ、かなり自己投資としてはかなり効率の悪いものになりかねません。会計やマーケティングなど、基礎的なことを学ぶだけであれば、専門学校に通うだけで十分に効果があると思います。

社会人経験後に

 なお、一部、社会人としての経験を持つことなく、ビジネススクールに入学が許可される人もいますが、かなり苦労すると覚悟しておいてください。日本のビジネススクールであっても、自らの就業経験に基づいた考察、発言は非常に重視されます。就業経験がない場合、どのようにして各種のディスカッション、プロジェクトに貢献できるか、悩むことになるでしょう。

 乱立の中、国内のビジネススクールが生き残りをかけて現在導入を進めているのがEMBA(Executive MBA)です。つまり、すでに経営層に入った人々に再教育の機会を与えようというものです。これば想定される参加者の置かれた多忙状況から、短期集中のものになります。うまく運営されればビジネススクールの援軍ともなってくれるでしょうし、様々な知見をビジネススクールにももたらしてくれるでしょう。参加者にとっても、MBA取得の場合よりもより即効的な人間関係の構築ができるという価値が期待できます。しかし、よほどうまく運営しなければ、教員よりも参加者の方がよほど現場経験に富んでいるなどの理由により早々に失敗し、本業にも悪影響を与えかねません、

 そもそもビジネスでの成功の仕方を大学で教えることが妥当なのかという根本的な問題がありますが、ここでは深入りしないでおきましょう。その上で、もし皆さんがビジネスパーソンとして将来の人生設計を考えているのであれば、そのいい点と問題点をきちんと把握した上で、将来設計のプロセスの一部として、MBA取得は一考してみる価値のある資格であることは間違いないと考えます。

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