日本経済新聞 関連サイト

OK
liberal arts-大学生の常識

就労ビザ厳格化で改めて考える
米国の強さの源泉

伊佐山 元 authored by 伊佐山 元WiL 共同創業者兼最高経営責任者
就労ビザ厳格化で改めて考える 米国の強さの源泉
エヌビディアのジェンスン・フアンCEOも台湾出身

 トランプ米大統領が米国民の雇用を促すために、専門技能を持つ外国人向けの査証(ビザ)「H1B」の審査を厳格化する方針を改めて打ち出した。大統領就任後、パフォーマンスなのか、本気なのか分からないような話題だらけの政権運営が続いている。この「鎖国体制」の始まりは、長期的にシリコンバレーをはじめ、米国の競争力の根幹にマイナスの影響を及ぼすと懸念されている。

 米国が世界で輝き、多くの挑戦者と成功者を生み出すことができたのは、多様性に寛容で、その重要性を理解していたからだ。世界中から文化や常識、外見、発する言語まで異なる多様な人間が集まる。彼らがそれぞれの得意な分野で常に競争している緊張感と危機感。これがイノベーションを生み出す強さの源泉になっている。こうしたことは、特にシリコンバレーの住民はよく知っている。

 ある大学教授の調査によると、過去20年間にシリコンバレーで起業したベンチャー企業の半数以上が、移民が創業の中心メンバーになっていた。よく話題にのぼる「ユニコーンベンチャー(時価総額が10億ドル以上のベンチャー企業で、成功を暗示する比喩)」に限っても、その51%は移民が創業者である。特に最近はインド人の創業者が多い。当社で出会う起業家や支援先企業を見ても明らかにインド人が増えている。

 少し歴史のあるベンチャー企業をみても、グーグルの創業者の出身国はロシアだし、画像処理半導体(GPU)のエヌビディアは台湾だ。配車アプリのウーバーはカナダ、電気自動車(EV)のテスラと宇宙開発のスペースXは南アフリカ、インターネット上に文書などを保存・共有するクラウドサービスのドロップボックスはイランといったような状況だ。これをみてもシリコンバレーでは、移民の活躍が欠かせないことがわかるだろう。

 優秀な移民が増えることで、代々住んでいる米国人もうかうかしているわけにはいかなくなる。互いに切磋琢磨(せっさたくま)し、社会全体に自然と向上心と挑戦心が浸透する。

 移民の第1世代や第2世代の人たちは、外から来た新しい人間として、自分自身の実力を証明しなければならない。生活のベースを築き、シリコンバレーの住民に認められるようになるため必死である。本国にいる両親や親戚にも認められたいという思いも強い。

 移民する背景は人によって様々だ。だが、慣れ親しんだ居心地の良い空間を飛び出して、未知なる土地に夢を求めている時点で、リスクへの耐性や志向は強いとも言える。背水の陣で退路を断っているからこそ「何としてでも成功してやる」「負けてたまるか」というハングリー精神にも火をつけられる。

 「Success follows people,not the technology(成功の秘訣は技術ではなく、人にある)」という言葉がある。

 ベンチャー企業の成功の秘訣は、強い心と大きな野望を持った人間の存在である。単なる技術や知識の勝負ではない。

 今後の米国の移民政策により、米国内に緊張感が失われ、ベンチャー企業の数も減り、結果的に全体の成長力が鈍化するのだとしたら、由々しき事態だ。そして、何よりも世界中の起業家の聖地であったシリコンバレーから、夢や希望が失われるのだとしたら、それこそ悲劇だ。

 私も微力ながら、日本から米国に渡ってくる勇気ある挑戦者の支援を続けていきたい。

伊佐山 元(いさやま・げん) 
1997年東大法卒、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2003年から米大手VCのDCM本社パートナー。13年8月、ベンチャー支援組織のWiL(ウィル)を設立。

[日経産業新聞2017年5月2日付、日経電子版から転載]

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>