日本経済新聞 関連サイト

OK
[ career-働き方 ]

地方の豪族企業(2)寿スピリッツ(鳥取県米子市)
――道産菓子、親は鳥取に
定番土産、全国に製販17子会社

地方の豪族企業(2) 寿スピリッツ(鳥取県米子市)――道産菓子、親は鳥取に定番土産、全国に製販17子会社

不振会社を次々救済買収

 北海道小樽市。石造りのしゃれた洋風の建物が並ぶ一角に六角形の塔を備えた洋菓子店「ルタオ」がある。ここのチーズケーキやチョコレート菓子は北海道土産の定番になっている。だが、「小樽(オタル)」を逆さにした名前を持つこの店が鳥取県米子市に本社がある寿スピリッツの傘下にあることはあまり知られていない。

 ルタオを運営するのはケイシイシイ(北海道千歳市)で、寿スピリッツの全額出資子会社だ。長崎の土産「九十九島(くじゅうくしま)せんぺい」を作る九十九島グループ(長崎県佐世保市)や「横濱ミルフィユ」が看板商品のフランセ(横浜市)も寿スピリッツの子会社だ。

 寿スピリッツは純粋持ち株会社として、全国各地に製造子会社6社と販売子会社11社を抱える。全国の土産用菓子の束ね役のような存在だ。

 子会社が独自にブランドを展開しているため「鳥取にグループ本社があることを知らない人が多い」(寿スピリッツの河越誠剛社長)。

ノウハウを共有

 寿スピリッツの設立は1952年。当初は山陰地方の土産用菓子を製造・卸販売していた。70年代から80年代にかけて石川県や山口県、宮崎県、兵庫県などに子会社を設立していった。90年代以降は主に経営不振に陥った菓子製造会社を傘下に収めてきた。

 ケイシイシイは、親会社が中国に製造拠点を移したため、廃業に近い状態だった。寿スピリッツが引き取り、96年に設立し直した。「東京ミルクチーズ工場」が主力製品のシュクレイ(東京・港)の源流企業は、98年に自己破産した老舗和菓子屋といった具合だ。

 大企業の子会社の救済に動いたこともある。フランセは明治ホールディングスの子会社で、2015年3月期の最終損益は8100万円の赤字だった。寿スピリッツは16年1月にフランセの全株式をアドバイザリー料も含めて1千万円で取得した。

 事業継続が難しい会社をいかに立て直すのか。寿スピリッツでは、人員削減などはせず、希望すれば必ず雇用する。経営不振時のごたごたを嫌って退職した人にも復職希望を聞く。その代わり「新たな仲間には経営理念の徹底的な理解と実践を求める」(河越社長)。

 理解と実践のためのツールは、寿スピリッツの経営哲学をまとめた140ページ余りの手帳だ。「経営に対する考え方」など6つの大項目の下に130ほどの小項目が並んでいる。

 小項目の内容は、「喜びを創り、喜びを提供する」という経営理念を、河越社長の言葉や過去の事例に基づいて記した400字程度の短文だ。

経営理念を記した手帳は朝礼などで活用

 手帳は全従業員に配布され、職場やグループ単位の朝礼で使われる。朝礼では、その日の代表が小項目から1つを選び、それに対する自分の考えなどを発表する。その後に他の参加者2人が感想を述べる。そのとき、絶対に褒めることをルールにしている。

 河越社長は「経営再建にあたっては、経営不振時の『仕事をやらされている』という従業員のマイナスの感情を前向きに変えなければならない。褒められることで少しずつ理念を理解し、働くことの主体性が取り戻せる」と説明する。

 グループ企業同士の助け合いも業績立て直しに一役買っている。グループ企業は営業地域こそ異なるが、菓子(スイーツ)という共通項を持つ。それがグループ間の連携の素地になる。

 米子市に本社がある寿製菓が07年に発売した焼き菓子「白うさぎフィナンシェ」。土産用菓子ではヒットの目安とされる年商1億円を超えているが、同社には焼き菓子に関するノウハウはなかった。焼き菓子の製造技術を提供したのは、佐世保市にある九十九島グループだった。

 グループ企業の数が増えると、一体感を持たせる工夫も必要になる。それが連携を促している。

 寿スピリッツが取締役会を開くときには、グループ各社も同じ時刻に取締役会を開くのだ。グループ各社の取締役はインターネットを通じて寿スピリッツの取締役会にオブザーバーとして参加している。

贈答品も視野に

 グループ全体の経営情報を共有できるのがメリットだ。他の子会社で成功した手法も公開される。売上高総利益率などの経営指標を比較される場にもなっている。「ライバルはグループ会社という意識は確実にある」と河越社長は語る。

 独特のグループ経営や商品作りの成果は、数字に表れている。17年3月期の連結営業利益は前期比12%増の36億円を見込み、5期連続で最高益を更新する可能性が高い。

 寿スピリッツはグループ各社に「プレミアムギフトスイーツ」の開発を求めている。土産物として観光客に買ってもらうばかりでなく、地元の人が贈答品にしたり、自分へのご褒美として買ったりする商品のことだ。

 河越社長は「商品の訴求力があれば、原価率が高くても、相応の値段で売れる」と言い切る。この夏に子会社のシュクレイが発売したキャラメルバー「ジェンディー」の12個入りの小売価格(税抜き)を6000円に設定した。観光客の注目を引くだけでなく、通信販売や百貨店での催事販売につなげる絵図も描く。
(鳥取支局長 船越純一)[日経産業新聞2016年10月12日付]

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>