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謎×経済=ナゾノミクス(5)成長しなきゃいけないの?

謎×経済=ナゾノミクス(5) 成長しなきゃいけないの?

 4月23日、高級商業施設「GINZA SIX」が開業して最初の週末を迎えた。サンローランやジミーチュウ、マノロブラニクにセリーヌなど、有名ブランドの前はどこも行列だ。しかし、訪れた27歳の女性はこう話した。「買い物はしませんよ。私には、いつも行く百貨店にあるもので十分」

低成長で非正規雇用が増加

4月20日に開業した「GINZA SIX(ギンザシックス)」(東京・銀座)

 「1番が節約、2番が貯蓄。海外旅行やテレビ、車を買うとは誰も言わない」。日本経済団体連合会の榊原定征会長は最近の若者について、こう嘆きます。もちろん企業経営者はたくさん消費をしてほしいわけですが、「ほどほど」が悪いわけではありません。かつて、日本が大きく経済成長した時期には公害などの問題が起きたという歴史もあります。

 それでも政府は毎年のように「成長戦略」をまとめます。日本はまだ、かつてのように成長を追い求めなければならないのでしょうか。

 政府は2016年にまとめた成長戦略で、「戦後最大となる名目国内総生産(GDP)600兆円の実現を目指す」と宣言しました。日本の名目成長率は1998年にマイナスに転じ、戦後最長の景気回復となった2000年代も1%にすら届かない年が続きました。足元の2016年の名目GDPは537兆円。政府目標の実現時期は、東京五輪がある20年ごろ。これから毎年、3%も成長していこうというのが政府の姿勢です。

 政府が成長を求めるのは、低成長では満足のいく暮らしができない人が出てくると考えるためです。例えば1989年まで20%以下だった非正規雇用の割合は、16年には37.5%まで高まりました。いつまで成長が続くかわからない企業が、働く人数をいつでも調整しやすいように、非正規を増やしたためです。パートやアルバイトは正社員と比べて給料が少ないことが多いです。新卒で非正規社員になった人が、改めて正社員になりたくてもその機会が乏しいという問題もあります。

現状維持では、縮むだけ

 給料が増えなければ、多くの人は財布のヒモを固くします。家計の消費に使うお金は1994年に前年比でマイナスに転じ、足元もマイナスとなっています。消費が増えないと商品やサービスを販売する企業の業績も悪化していきます。

 日本では08年に人口の減少も始まりました。1960年代の高度経済成長期は人口が増え、消費する人や生産する人も増えていく「人口ボーナス」が成長の原動力となっていました。いまは少子高齢化で働き手が減るため「人口オーナス(重荷)」といわれます。1人1人が現状維持を目指すだけでは、国全体でみると縮んでしまいます。

 今は65歳以上の高齢者が人口の3割近くを占めています。人口に占める高齢者の比率が高まれば、現役世代が払う保険料や、税金でまかなう医療や年金などの社会保障制度が揺らぎます。SMBC日興証券の宮前耕也日本担当シニアエコノミストは「このままでは若い世代に不満がたまってしまい、制度が維持できなくなる」と心配しています。

 成長しないことは他の国との競争でも不利です。中国は年7%近い成長を続け、東南アジアの各国も年5%程度成長しています。企業の目には、アジア各国は日本よりも魅力ある市場に映ります。実際、14年には米国のシティグループが日本の個人向けビジネスからの撤退を決めて話題になりました。

新たな産業革命

 これから日本が成長するためにはどうすればいいのでしょうか。ポイントは働き手を増やし、新しい技術やサービスを生み出すことです。政府は女性の就労を促したり、高い技能を持つ外国人を受け入れたりして、働き手を増やそうとしています。人工知能(AI)・ロボットを活用した動きは「第4次産業革命」とも言われます。SMBC日興証券の宮前さんは「歴史をひもとくと、新たな産業が生まれた時代に経済は大きく上向きました。技術革新のほか、海外に出せるコンテンツを育てられるかどうかが成長のカギ」と見ています。

 日本国内だけを見ると成長は難しいし、それほど成長しなくてもいいように見えるかもしれません。一方で企業や研究者の戦う舞台は海外に広がっています。ナゾの風景が広がる日本経済も成長を軸にみれば、目指すべきことがはっきりしてくるようです。
(経済部 石橋茉莉)[日経電子版2017年5月6日付]

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