日本経済新聞 関連サイト

OK
career-働き方

地方の豪族企業(3)日東精工(京都府綾部市)
――「産業の塩」積み上げ月へ、
ネジから月面地盤調査まで

地方の豪族企業(3) 日東精工(京都府綾部市)――「産業の塩」積み上げ月へ、ネジから月面地盤調査まで

内製極め「満足度120%」

 月に家は建つか――。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が始めた月面地盤調査。無重力の環境で月面探査機を使い遠隔操作で地中の状況を調査することを目指すというが、調査の一端を任されたのが日東精工だ。京都府綾部市という人口3万3千人の街に本社を置きながら戸建て住宅用などの地盤調査機で国内シェア80%超を確保、その実力を見込まれた。

ニーズを先取り

 「月だろうが、火星だろうがニーズがあれば、どこへでもいく」。材木正己社長(65)は決して手を抜かない。「顧客満足度は100%では不十分」と言い、先々に出てくる顧客ニーズを先取り「あらかじめソリューションを用意しておき、120%の満足度を実現してこそプロの仕事」と話す。

 日東精工が月に出るきっかけとなったのが「ジオカルテ」と呼ばれる地盤調査機だ。1キロニュートンの重さで先端のドリルを回転させながら地面に押し込み「どれくらい深く沈むのか」「何回回転するのか」「そのスピードは?」とデータを収集、地盤の固さや土質を割り出していく。

 「地質を正確に知ることができるだけでなく使い方も簡単」と足立由紀夫取締役(62)。納入先であるゼネコン(総合建設会社)やハウスメーカーからの評価も高く、1台数百万円と高額な機器ながら累計販売台数は2000台に達した。「地盤調査機では世界でもトップレベル」(材木社長)を自負する。

 ただ、日東精工が地盤調査機事業に参入したのは1990年代のこと。決して地盤調査機の専業というわけではなく、もともとは同社は工業用ファスナーと呼ばれるネジの会社だ。世界で初めて精密ネジの量産技術を確立したネジの総合百貨店として知られ、地盤調査機も先端のドリルをネジのように回すことから始まった。ジオカルテはネジを知り尽くした会社だからこそ開発できた機器なのだ。

 「もっと小さく」「さらに細く」――。顧客ニーズに応える形でネジの改良を続け、日東精工の現在の生産能力はグループ全体で年間で264億本。これまで生産したネジの本数は延べ6166億本に達する。

金型まで自社で

 品ぞろえも豊富だ。現在、生産できるネジの数は約7万種類。新規製品の割合は全体の3割を占める。ネジ部の太さが直径0.6ミリの砂粒くらいの世界最小クラスの極小ネジもつくる。

 日東精工の特徴はすべての工程を自社で手掛けていることだ。素材選びから材料に力を加えて成型する「圧造」、ねじ山を造る「転造」、熱処理から検査まですべての工程を内製化しているのはもちろん、金型まで人に任せず自社でつくる。

 「顧客満足度120%を目指す」のは地盤調査機だけなくファスナー事業にも共通した命題だが、この内製化にこそ顧客満足度を引き上げる鍵がある。ネジ1本とはいえ、それをすべて自分でつくる力を蓄えていることがどんな細かな仕様変更にも応えきれる力となり、新製品比率を維持する力となる。

 ネジは「産業の塩」と呼ばれ、もの作りにはなくてはならない製品でもある。小型乗用車なら1台で3000本、航空自衛隊の戦闘機「F―15」になると1機32万本ものネジが製品を支える。

 それだけに技術革新と無縁ではいられない。グローバル競争に勝ち抜くため、自動車や電気製品が猛スピードで進化することを求められるようにネジも常に進化を迫られる。激しいスピードについていくには金型を外注に頼っているわけにはいかない。

 例えば金型が必要な精密製品をつくる場合、日東精工なら製品完成まで20日でできる。しかし、仮に金型を内製化していなければ、金型をつくってもらうだけで20日かかってしまう。

 しかも一発で顧客のニーズに応えられなければまたやり直し。日東精工なら微妙な顧客のニュアンスを聞きながら自分で微調整して金型を仕上げることが可能だ。

 日東精工の強さはネジだけにとどまらない。砂粒ほどの小さな精密ネジの場合、「そんなに小さなネジをどうやって締めるのか」という問題が派生する。日東精工はここにもソリューションを提供する。ネジ締め機もつくってしまうのだ。

 日東精工の精密ネジは日東精工のネジ締め機がなければ締まらない。こうなればネジが売れればネジ締め機も売れるプラスの連鎖が生まれる。

 日東精工の2015年12月期の売上高は237億円、経常利益は20億円で売上高経常利益率は8.3%と中堅企業としては収益率は低くない。

 「京都府北部地域の活力を維持するためにも成長し続けることが必要」と材木社長。アジアや中南米などでの事業展開も加速させ、18年12月期には売上高を15年12月期比で68%増の400億円にまで引き上げる計画だ。そのためには「あらゆるものがネットにつながる『IoT』への対応も検討していく」(足立取締役)考え。生産現場や製品の隅々までに入り込むネジとAIを融合、製品情報を収集するポイントとして新たな機能を付加することなども選択肢の1つだという。

日東精工・材木正己社長に聞く――ネジ1本、床に落とさず、努力の結晶、社員も認識

 「産業の塩」と呼ばれるネジ。そのネジを顧客志向で磨き込み進化させてきたトップランナーが日東精工だ。独自の高付加価値路線で新市場を切り開き続けてきた同社の材木正己社長に経営のポイントを聞いた。

 ――ネジ本体の直径が0.6ミリと世界最小の製品づくりに成功しました。

 「当社には世界一とされるものが3つある。まず第1が『マイクロネジ』。デジカメのピント調節などに使われる精密なネジだ。ワイヤづくりから『圧造』、強い力を加えて素材を変形させる塑性加工である『転造』、熱処理、金型づくりまで全行程を自社でやる。他社に任せないですべて自社で責任を持つ」

 「2つ目はネジ締め機だ。本体部分の直径が0・6ミリのネジをつくったはいいが、今度はこれを締める道具がない。そこでその道具も当社が提供している」

 ――3つ目は。

 「地盤調査機の『ジオカルテ』。日本でのシェアは80%超でニュージーランドやタイなどからの引き合いが来ている」

 ――なぜ、内製化にこだわるのですか。

 「品質にこだわるからだ。例えばネジなら一本でも緩めば事故になる。当社のネジは緩まないことが前提になっているため、自動車や電気製品などの重要な箇所で使われている。仮に緩めば自動車なら消費者の命を脅かす大事故になりかねない。外注すればコストはカットできるが、品質は保証できなくなる」

 「ネジをつくるだけでなく検査も重要な仕事だ。どのネジがどの強さで締められているか、一つ一つ検査し、メーカーにリターンする。細部にわたったこだわりが日本のものづくりを強くする」

 ――社員教育に力を入れていますね。

 「当社の精密ネジは砂粒ほどの大きさ。しかし、そんな小さなネジだが、一本たりとも工場の床に落ちていることはない。そのネジ一本にそれをつくった時間、それに関わった研究者の知識、油にまみれてつくった先輩たちの努力が詰まっている。社員にはそういった基本的な認識を持ってもらっている」

ざいき・まさみ
 1971年(昭46年)舞鶴高専卒、日東精工入社。05年取締役、10年常務、13年から現職。65歳。

(聞き手は前野雅弥)[日経産業新聞2016年10月14日付、日経電子版から転載]

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>