日本経済新聞 関連サイト

OK
[ career-働き方 ]

食の訪問記(13)江田島オリーブ地中海に似た気候を生かし地域活性化

平井幸奈 authored by 平井幸奈株式会社フォルスタイル代表取締役CEO
食の訪問記(13)江田島オリーブ 地中海に似た気候を生かし地域活性化

 ブリュレフレンチトースト、フォル・グラノーラ、ドラフトコーヒー......。美味しいを生み出す食のプロデューサー、株式会社フォルスタイル代表取締役の平井幸奈です。本企画は私が日頃から注目している日本を代表する食のブランドを訪問し、体当たりでインタビューする企画です。愛される日本の食の秘訣、守り方・育て方、新しい食文化の作り方、そして新たなる挑戦と描いている未来についてじっくりとお話を聞いていきます。

会社概要 江田島オリーブ株式会社 事業内容:オリーブの栽培・加工・販売 設立:平成23年3月 従業員数:27人(平成29年4月時点)

 7カ所目の訪問先は、広島産オリーブ"安芸の島の実"を栽培する江田島オリーブ株式会社です。広島県江田島市。穏やかな瀬戸内海に面したその場所にオリーブ畑が広がっています。全国でも珍しいオリーブの6次化複合施設「江田島オリーブファクトリー」では、オリーブの栽培、収穫、加工、飲食、販売まで行っています。オリーブ栽培に適した気候の江田島市で、広島産オリーブ「安芸の島の実」を栽培。希少価値の高いエクストラバージン・オリーブオイルを作っています。

訪問のきっかけ

 人口減少により一時は荒れ地だった場所、ゴルフ場予定地だった場所がオリーブ畑に変わっている、そんな光景を目にしました。ただ美味しい商品を作るだけではなく、地域に雇用を生み出し活性化する、そんな取り組みが江田島で始まっています。民間だけではなく行政も巻き込んだ事業。これまでは長い伝統を受け継いできた日本の一流の食を追ってきましたが、今回は視点を変えて、新しく生み出される日本の食、地方の6次産業に目を向けてみたい、そんな思いからお伺いしました。インタビューに答えてくれたのは、江田島オリーブ総合企画室課長の大澤潤さん、総合企画室次長の松尾諭さんです。

里山が荒れるのを防ぎたかった

平井 広島産オリーブのプロジェクトが始まった経緯を教えてください。

松尾 当社創業の地へ恩返しをしたいという想いからこの事業が始まりました。人口が急激に減っていく中で、里山が荒れていくのを少しでも防ぎたいという想いです。社会貢献、地域活性化、地域の雇用創出を目的に行政と手を組んでスタートしました。

左が松尾さん、右が大澤さん

平井 江田島市と手を組まれたのですね。

大澤 実はこの場所も、廃校となった旧小学校の校庭横の敷地を江田島市から借りて運営しております。

平井 街をあげての一大プロジェクトになっているのですね。

大澤 そうなんです。地域と共にオリーブで瀬戸内・広島県島諸部を元気にする活動「安芸の島の実プロジェクト」を立ち上げ、地元の方々とともに広島県産オリーブを全国・世界へ広く認知されるよう取り組んでいます。

平井 そもそも、オリーブに目をつけられたきっかけは何だったのですか。

松尾 この瀬戸内の気候がオリーブづくりに適していて、栽培にそれほど手間をかけずに丈夫で長寿命なオリーブを植栽することができると考えたからです。また、農業従事者の高齢化という課題に対しても、オリーブ栽培はとても適していると思います。

平井 オリーブづくりに適している気候とは、どのような気候でしょうか。

松尾 年間平均気温が15度前後、年間日照時間は2000時間以上、年間降水量は1000mm以下と言われており、ここ江田島市はほぼ条件を満たした地中海と似た気候の特性を持ち合わせています。実際に、近くの小学校には樹齢60年にもなるオリーブの木があり、元々この地がオリーブ栽培の環境に適していることが伺えます。

イタリアから専門家を招き技術向上

オリーブ畑(江田島上空から)

平井 確かに瀬戸内の海に面したこの温暖な気候は、地中海と似ているように思います。どのようにオリーブオイルづくりの技術を学ばれたのですか。

松尾 手さぐりでのスタートでしたが、当初は主に国内の生産地で研修させて頂き、近年はイタリアから専門家を招き、栽培・加工技術の向上に努めています。イタリアはオリーブ栽培の先進地であり、長いオリーブ栽培の歴史があること、国内でも地域ごとに商品の付加価値作りを行っていることなど見習うことが多々あります。そして、オリーブオイルの製造においては、イタリア製の最新の搾油機を導入し、高品質なオリーブオイルづくりをしています。

平井 海外からの技術と機械の導入は、ハードルが高そうですね。

松尾 実際に思いもよらない問題が次々と発生して、とても苦労をしました。似てるといっても気候の違いはありますので、活用できる技術とそうでないものとを上手く組み合わせながら独自の栽培技術を確立していきたいと考えています。

 また、我々は、栽培において農薬・除草剤・化学肥料を使わずに栽培することを"こだわり"として取り組んでおりますが、それによって害虫が発生して、木を枯らしてしまうことがありました。オリーブの樹の根元に発生する害虫は、本来であれば農薬を使って対処するのですが、基本的には目視により、人の手で対処します。それは地道で途方もない作業です。

平井 それは根気のいる作業ですね。農薬を使わないと、雑草などの処理も大変ですよね。

松尾 そうなんです。地域の皆様にも協力していただいて、草刈りを行っています。地元の多くの方々に支えられています。

平井 ここ江田島で取れたオリーブを「安芸の島の実」と呼んでいると伺いました。

大澤 安芸の島の実は広島産オリーブのことです。一つひとつ丁寧に人の手で摘み、その後プロの目で果実を選別しています。安芸の島の実を育てる土壌については、地元の特産物である牡蠣の貝殻を粉砕した肥料を使用するなど、広島の土地ならではの工夫もしています。

果実10kgから搾れるオイルは1kg

平井 オリーブオイルができあがるまでの工程を教えてください。

オリーブの実

松尾 収穫したオリーブはその日のうちに洗浄し、破砕してペースト状にしオイルを抽出し、余分な水分を除去したのちに濾過をしてできあがります。オリーブの果実10kgから搾れるオリーブオイルは、僅か1kg程度しかありません。

平井 採取したオリーブを、その日のうちに加工するなんて大変ですね。

松尾 そうなんです。オリーブの収穫は10~11月の約2カ月間。その間は集中的に人手が必要になります。

搾油機から出てくるオイル

平井 オリーブを育てる農家さんは、地元の方が多いのでしょうか。

大澤 そうですね。弊社で運営している農園の他、江田島市がオリーブの生産者にオリーブの苗木の助成配布を行うなど、栽培を始めやすい環境が整えられています。収穫したオリーブは、ご家庭で楽しまれる方もいらっしゃいますし、弊社が買い取ってもいます。

江田島の人々がオリーブを育てる

平井 まさに、地域に雇用を生み出されているのですね。

松尾 そうです。オリーブを生きがいとして栽培されている方々もいたりして。これは嬉しいことですね。

平井 高齢の方でこれまで全く馴染みのないオリーブを作るというのは、ハードルが高くないのですか。

松尾 実際にオリーブにあまり馴染みがない方も多くいます。この地域には元々みかんなどの柑橘類を栽培されている方々が多いのですが、みかんなどの柑橘類に比べて手間はかからないので、興味を持っていただける方々は多いです。

平井 オリーブの世界も深くてその差別化はとても難しいという印象がありますが、何よりまずは土地に根付かせるということが大切なのですね。

大澤 江田島の人々にオリーブを育ててもらう、その基盤作りが始まったところです。

オリーブの収穫

オリーブの6次化複合施設

平井 この江田島オリーブファクトリーもアンテナショップであり、店頭に置いてある商品を見ても地域密着型のお店という立ち位置になっていますね。

大澤 はい。1階はオリーブオイルの製造工場になっておりまして、製造時期には上から覗いていただくことができます。2階はショップの他に直営のレストランになっています。オリーブの栽培、収穫、加工、飲食、販売まで行うという、全国でも珍しいオリーブの6次化複合施設なのです。

エクストラバージンオリーブオイル

平井 レストランではここで製造されているオリーブオイルが楽しめると伺いました。

大澤 はい。弊社で製造しているオリーブオイルをまずは試していただきたい、とにかくたくさんのお客様に味を知っていただきたいと思います。

平井 お客さんは観光客の方が多いのですか。

大澤 土日は特に遠方から来てくださるお客様が多いと感じております。海に面していて自然も豊かな場所なので、ドライブにも最適なコースなんです。もちろん地元の方にも多くご来店いただいています。

平井 安芸の島の実のオリーブオイルの楽しみ方を教えてください。

松尾 私がお勧めするのは茶碗蒸しです。様々なものにオリーブオイルをかけてみましたが、その中でも茶碗蒸しは絶品ですね。また、昨年レストランで提供した、オレンジかき氷は絶品でした。オレンジの果汁で作ったかき氷にオリーブオイルをかけてみましたが、それがとても好評でした。

平井 かき氷にオリーブオイルをかけるとは、なんとも斬新ですね。

大澤 この土地で育ったオレンジとオリーブオイルのマリアージュは絶品なんですよ。

平井 まさに地産地消。今話題の6次産業化の事業展開ですね。最後に、今後のビジョンを教えてください。

松尾 広大な耕作放棄地をオリーブ畑に変え、地域に新しい雇用が生まれ、活気あるエリアへの変革につなげたていきたいと考えています。そして食の安心と健康を軸に広島産オリーブを日本の食文化に、発信し定着させていくことが我々の目標です。

左が大澤さん、右が松尾さん