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お悩み解決!就活探偵団2018学生も企業も
「就活乗り遅れ組」に福がある

authored by 就活探偵団'18
お悩み解決!就活探偵団2018 学生も企業も「就活乗り遅れ組」に福がある
写真は本文と関係ありません

 売り手市場の今年の就活では、学生の6割超が希望企業から内定をもらい、早くも就活を終えているとの調査もある。一方で、まだ黙々と就活を続けている学生がいる。内定がゼロだったり、行きたい会社の内定がとれていなかったりと抱える事情は様々。梅雨空が続く中、そんな「出遅れ組」に春ならぬ夏は来るのか。

内定ゼロで意気消沈

 都内の女子大に通うAさんは大手商社の一般職などを志望していたが、希望する会社は全滅した。唯一持っている中堅メーカーの事務職の内定は獲得したものの、あまり気が進まない。航空会社の客室乗務職も受けているが、内定が出るのは7月に入ってから。その間に中堅メーカーから内定承諾をせっつかれる可能性もあり、断れば持ち駒はゼロ。就活を終えた友人たちは、学生最後の自由を謳歌しようと遊び始めた。焦りは募る。中小企業など、他の業種を受けることも考え始めた。

イラスト=篠原真紀

 埼玉県内の私大4年男子のBさんは大手企業での営業をこころざし、3月から受けてきたが、どこにも引っかからなかった。「これではまずい」と思い泣く泣く中小企業に切り替えた。今の心境は「負けてたまるか」。モチベーションを落とさないよう、何とか自分を奮い立たせている状況だという。

 「6月1日解禁」の採用スケジュールは2年目を迎えた。昨年様子見だった企業も、今年は早い時期から参戦し、競争が激しくなった。ビズリーチ(東京・渋谷)が12日から14日に実施した調査では、約65%が第1志望の企業の内定を獲得して、就活を終えているという。

 そんななかでまだ就活を続けている学生には、大きく2パターンがある。一つは、「売り手市場といわれ、就活を甘くみていた」タイプだ。早い時期に業種を絞りすぎて、人気企業ばかり受けていたりしていた。もう一つは「就活意識低い」系。体育会系の運動部や、理系の研究、留学での自己研さんに熱中して機を逸した。

 一般的な就活のレールには乗り遅れたものの、そこにダイヤモンドの原石があるとみる企業もある。

大手商社もまだチャンス

 三井物産は、夏に一風変わった採用を始める。2018年卒が対象で、同社の研修施設で2泊3日の合宿を実施する。商社の業務を体験するグループワークやグループディスカッションなどを通じて学生の適性をみるというもの。合宿型採用は8月中に2回開催し、1回あたり40人ほどの参加を見込む。合宿終了後に採用の可否を通知する。

 人事総務部人材開発室長の古川智章氏は「新しい採用手法を試したかった」と説明する。現在の一般的な採用は30分ほどの面接で学生の人柄や熱意、適性などを判断する。しかしこの方法だけでは短時間でのプレゼンが得意な人の評価が高くなりがちで、「面接での自己PRが苦手な人材を正当に評価するには時間が足りない」と指摘。「面接以外の時間の姿も見て、人物を見極めた上で採用したい」と考え合宿採用を始めた。長時間学生を拘束することになるため、学業への影響を抑えられる時期として8月に実施することになった。

 グループワークなどを通じて学生にも商社の仕事を理解してもらう。「学生が実際に働いてみて、学生と企業が互いの適性を見極めた上で採用する方法が自然な採用のあり方」といい、ミスマッチを防ぐ手法として合宿採用に期待を込める。

 さらに同社は6月下旬が応募締め切りの7月選考も実施する。海外留学で6月選考に応募できなかった学生のために用意しているが、留学経験のない学生も応募可能だという。7月選考、8月の合宿選考とも「6月の選考を受けていない学生」が対象だ。

いざとなると働くコツコツタイプ

一橋大キャリア支援室の西山昭彦特任教授はこの時期まだ内定を獲得していない学生は「真面目なコツコツタイプが多い」と分析する

 「原石」の掘り起こしを丁寧にフォローする大学もある。

 有名企業への就職率が高いとの評価がある一橋大。さぞかし、学生の就活は楽勝かと思いきや、皆が皆志望企業に入れるわけではないようだ。

 一橋大は3年前から「就活継続学生スカウトプログラム」という制度を取り入れた。この時期に、まだ内定をとれていない学生を学内で募集。一方で一橋大生に興味を示す約300社の企業から採用情報を集め、これを登録した学生にメールで送る。

 「アピールが得意なリーダー型の学生は少ないかもしれないが、真面目なコツコツタイプがいる。こういう人はいざとなると働くからいいですよ」。このプログラムを担当する一橋大キャリア支援室の西山昭彦特任教授は、現時点で内定をとれていない学生について、こう評する。今年は6月10日が「分水嶺」だったという。「この日までに内定をとれていない学生が苦しんでいる。こうした学生を救ってあげるのがキャリア支援室の大事な役割なのです」(西山氏)

 大学が採用フローに直接関与するわけではないが、学生に届くのは一般の学生には出回らない一橋大生専用の情報。しかも顔ぶれは大手の商社や銀行、メーカーなど、有名企業もかなり多い。昨年はこの制度を利用して約100人が内定を獲得し「春」を迎えた。一橋大の場合、1学年1000人のうち企業に就職するのは約800人だから、1割強が恩恵を受けたことになる。

 学生が企業を選ぶ視点でも、「残りものに福がある」は一定の真実味がある。大手志向で見向きもしてこなかった中小企業やベンチャーにも、派手さはないがその世界では名をとどろかせるような優良企業も多い。そんなメリットに気づいた学生が動き出している。

ピカピカの高学歴より

 「聞かれたことにはすべて正直に回答します」「採用の定員は設けていません。幹部候補になってもらえるような、学生に出会いにきました」

 6月下旬。東京・五反田のビルの一室は熱気に包まれていた。開かれていたのは18年卒の学生向けの就活イベント。集まった20人の学生が真剣に耳を傾けるのは、知名度はそれほど高くない4社の中小・ベンチャー企業の人事担当者の説明だ。参加する学生はその多くがまだ内定を取っていないという。

 およそ3時間にわたるイベントで、学生は4つのグループに分かれてグループワークをこなした後、各企業は持ち時間6分で学生にアピールする。企業はプレゼンが終わると、各グループを回り、座談会形式で質疑応答などに応じる。

 参加した青山学院大4年の女子学生は、もともとは大手志望だった。けれど「もっと広い視点で考えようと感じ、とにかくまずは動かなければ」と思い足を運んだ。「大手は振り落とす採用活動だが、中小やベンチャーは意欲があれば定数に関係なく採用するという方針があります。気が楽になるし、がんばろうという気になれます」

中小・ベンチャー企業4社が熱心に自社の魅力をアピールした(東京都品川区のDYM本社)

 イベントに参加したソフトウエア開発、エス・エス・アヴェニュー(大分市)の木下憲吾社長は、「学生が企業を選ぶ場であると同時に、企業も学生を選べるのが良い」と話す。めぼしい学生がいればイベント後に、選考を飛ばして口説いて内定も出すという。大分が本社だが、東京での配属もある。

 今就活している学生の魅力は、と木下社長に聞くと、「ハングリー精神があり、また当社への興味を感じられる人が多い」と満足げだ。もちろん、来る者拒まずというわけではない。「企業説明の後にまず『残業時間はどれくらいか』などといった質問をする学生はその時点でアウト。長時間労働はいけないが、ものづくりが好きな人でないと続かない」

 このイベントを主催するDYMの沖之城雅弘取締役は、「大手の就活に失敗した学生は、ようやく受かった企業でがんばろうと意欲がある場合が多い」と評価する。中小やベンチャー、あまり知られていないBtoB(企業間取引)企業は大手とは求める人材も違う。「大手が好むピカピカの高学歴な学生よりも、野心のある学生のほうが好ましいようです」

相手がよく見えてくる時期

 学生が自らのプロフィルを作成して企業に公開し、企業が気に入った学生と直接コンタクトをとるマッチングサービス「オファーボックス」を運営しているアイプラグ(大阪市)。同社は6月、中小企業の取り扱いを増やそうと、りそな総合研究所と業務提携した。りそな総研は会員企業約1万社のうち、9割以上が従業員300人以下の中小企業だという。

 中小はそもそも採用人数が少ない。アイプラグの中野智哉社長は「採用する一人ひとりに妥協が許されず、最初から自社に本当にフィットした人材がほしいようだ」と分析する。そのため、そもそも大手志向の学生は中小に適しておらず、大手の内定が決まりだした今こそが、学生が中小をきちんと見てくれる時期だと期待している。

 中野社長は「大手でくすぶるか、中小で活躍するか、その人次第だ」と話す。これまでの先入観や周りの意見に惑わされることがない今の時期こそが、本当に自分に合った会社をじっくり見つけられる好機なのかもしれない。
(鈴木洋介、斎藤公也、夏目祐介、桜井豪)[日経電子版2017年6月22日付]

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