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東大か京大か、決めるのは私
女子学院の白熱教室

東大か京大か、決めるのは私 女子学院の白熱教室

 「女子御三家」と呼ばれる名門私立女子校、女子学院(JG、東京・千代田)。東京大学など難関大学に多くの生徒が進学するが、校則は4つしかなく、自由闊達(かったつ)、自主自立を是とする完全中高一貫制の女子校として知られる。ただ、受験生やその保護者に公開される機会は文化祭などに限られている。東京・一番町のJGを訪ねた。

隣の教室も議論白熱

 「今日の午前の話です。英語の先生がゲームを授業に取り入れたみたいで、隣で授業をしていた数学の先生に『騒がしくて申し訳ありませんでした』と謝ったそうです。すると数学の先生は『気付きませんでした』と答えたそうです。数学の授業も議論が白熱していたんでしょうね。これがうちの授業スタイルです」。5月9日、女子学院の院長室を訪ねると、鵜崎創院長はこんなエピソードを明かした。

東京・千代田の女子学院

 「アクティブ・ラーニング(能動的な学習)」という対話形式の授業スタイルを取り入れる学校が増えているが、以前から女子学院はアクティブ・ラーニングが主体だという。科目ごとに教師は課題を出し、生徒はその関連書籍を読み込むなどして、次の授業に備える。授業では教師は時には司会役となり、生徒がそれぞれの意見を述べあう。例えば、数学の場合、Aさんが独自の解き方を示すと、それに対してBさんが「こういう解き方はどうですか」と問いかけ、他の生徒も意見を次々出し、解き方が一通りではないことを確認するという。

 「今は連休明けですから、生徒たちは大変なんですよ。相当の課題が出され、たくさんの本や資料を読み、それをまとめ、授業で議論するために備えなくてはいけない。このやり方は、授業だけではなく、クラブ活動(部活)や文化祭や体育祭など各委員会の場でも発揮される。自由活発に話しあう。ただ、ルールは守る。発言するときは発言するが、聞くときは聞く。必ず反論する生徒がいますが、ワイワイガヤガヤとはなりません」と鵜崎院長はいう。

リベラル・アーツを追求

 なぜアクティブ・ラーニングを重視しているのか。

 1870年創立の女子学院。日本初のミッション系女子校として誕生した当初から、米国由来の「リベラル・アーツ(教養)」を追求してきた。鵜崎院長は、「アメリカの学校はまず幅広い分野の基礎的な知識を学び、それをベースに授業中にディスカッションするというやり方が多い。リベラル・アーツを追求した結果、自然とアクティブ・ラーニングが主体になった」という。

女子学院の鵜崎創院長

 通常の女子校の授業は座学が中心で、教師の講義を静かに聞くスタイルだ。女子学院の授業はどれほど議論が活発なのか、「白熱教室」を是非のぞいてみたいとお願いすると、「すぐにというのは難しいです。実は保護者にもほとんど公開していません。年1回の参観日をやっているのは中1の時だけなんです」と鵜崎院長。

 授業の見学が限られている一つの理由は、セキュリティー上の問題もあるが、「女子学院は伝統的に生徒の自主自立心を養成していきたいという思いが強いからではないでしょうか」という。一つひとつの授業を大事にし、きめ細かく生徒と関わっているということかもしれない。

子役タレントにはノーコメント

 「ウチの学校はベルトコンベヤー式ではありません。教師や親がこれだけの勉強のメニューをやっておきなさいと、やらせるのではなく、まず自由な環境を与え、自分で考え、自分の言葉で話し、自分で何事も決めるのが基本だ」という。

 確かに自由な校風だ。女子校では珍しく制服がない。かわいい制服を「売り」にしている女子高も少なくないが、1972年に廃止した。「茶パツだったり、アクセサリーを付けている生徒もいる。以前、浴衣できた生徒がいました。服装は自由だといってもさすがに注意されました。ただ、それほど派手な格好の生徒は多くはないですね。各自がよく考えて服装を選んできています」と鵜崎院長は笑いながら話す。

女子学院は「JG」の略称で知られている

 校則は4つだけ。(1)校章のバッジを付ける(2)校内では上靴を履く(3)登校したら原則外出しない(4)基本、校外活動は届け出る。どれも校則というよりも常識の範囲内だ。今春、有名な子役タレントが女子学院に合格したものの、他の大学付属の女子校に入学したと話題になった。

 鵜崎院長は、「その件についてはノーコメントです。ただ、芸能活動は実質難しいですね。校外活動もケースバイケースですが、授業に影響する活動はダメということです」という。

京大に18人はたまたま

 女子学院の1学年の定員は240人だが、実際は230人前後。2017年3月の卒業生の大学別合格者数では、東大が32人のほか、早稲田大学に112人、慶応義塾大学に68人がそれぞれ合格した。女子校として東大合格者数は桜蔭高校に次いで全国2位だ。

女子学院には保護者でも簡単に入ることができない

 しかし、鵜崎院長は「生徒の自主性に任せているから、それを生かす進学指導を行っています。仮に私が『君は東大に受かる実力があるから、受験しなさい』なんて指導したら、生徒たちだけでなく担任の先生からも反発されるでしょうね。これも生徒の自主性を重んじる伝統なんです」という。

 女子学院出身の東大文科1類の学生に聞くと、「別に東大になんて行かなくても、自分のやりたいことができる学校に行くという雰囲気です。東大に入る実力があっても京都大学や他の大学に進学した人もいましたし」という。

 16年、女子学院から18人が京大に合格した。都内からではトップの実績で、「JGが京大志向になったのか」と話題を呼んだ。だが、鵜崎院長は「たまたまです。学校側が京大をすすめたわけではなく、何人かの生徒が示し合わせて受験したのでもない。それぞれ別のクラスの生徒でしたし、受験後に、あなたも受けていたのという感じでした。それぞれが自分で考えた末、京大を受験しただけです。実際、17年は京大合格者は5人になりましたしね」と話す。

喧噪から一転、礼拝では静寂

 女子学院の生徒はとにかく活発で明るい。午後3時半をすぎて授業の後の終礼がおわると、とたんにグラウンドに飛び出し、テニスなどそれぞれの部活動が始まった。その掛け声は窓を閉めた院長室にもとどろくほど。「朝7時30分から自主的に朝練をやっていて、にぎやかですね。ただ、礼拝5分前の午前8時10分になると、礼拝に出席するため学校全体が静かになります。朝の礼拝の15分間は、心を静めて黙想する時間です」という。プロテスタントのキリスト教主義の学校として、毎朝の礼拝は欠かせない。チャイムが鳴ると、しばらくの静寂に包まれる。

 喧噪(けんそう)から静寂、そして白熱した議論中心の授業、女子学院の生徒はメリハリをつけ、切りかえが早い。午後5時(夏季は午後5時半)の下校時刻になると、これまたアッという間にいなくなるという。高2まではクラブ活動や各委員会などを中心とする生徒も、高3の受験期になるとパッと切りかえ、受験モードに突入する。

 女子学院の卒業生は様々な分野で活躍している。弁護士や医師、学者から女優、アナウンサー、漫画家など幅広い。医師でありながら、登山家でもある今井通子さんも卒業生だ。「様々なキャリアを模索する卒業生が少なくないですね。やはり個が強く、物おじしない生徒が多いので、どんどん挑戦していく」と鵜崎院長。自由な校風のなかで、自立心の強い女性が次々育っている。
(代慶達也)[日経電子版2017年5月20日付]

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