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早稲田大ワークショップ2017(3)あなたの日常はもっと輝く
東大襖クラブに学ぶ大学生の「生き方」

authored by 早大ワークショップ受講生
早稲田大ワークショップ2017(3) あなたの日常はもっと輝く東大襖クラブに学ぶ大学生の「生き方」
 この記事は、早稲田大学の2017年度学部横断型授業「プロフェッショナルズ・ワークショップ」の日本経済新聞社実施講座を受講した学生による作品です。昨年、一昨年に引き続き、今年も4月から6月まで講座を実施しました。「日経カレッジカフェのコンテンツを作成しよう」という課題に対して、33人の学生がメディアの仕組みや取材、記事の書き方について学び、6グループに分かれて実際に独自記事を作成しました。他のグループの作品も順次、掲載します。
【早稲田大ワークショップ2017】
最優秀賞「留学生も早大生~WASEDAは本当にグローバル?~」
優秀賞「つぶやくことが仕事です!Twitterの「中の人」は何をしている!?」

 「サークル」と「バイト」。人生の夏休みとも言われる大学生活を、この2つに費やしている大学生は非常に多い。そんな中、この2つの側面を併せ持つ団体が東京大学にある。それが「東大襖クラブ」である。

障子や襖の修繕を行う東大襖クラブ

 「東大襖クラブ」は創立63年の歴史の長いサークルだ。当初は地方から出てきたお金のない学生が生活費を稼げるようにと、大学主導の下で発足した。1980年代に入り、現在の学生主導の形になったという。活動としては、一般の家庭や旅館から依頼を受けて、障子や襖の修繕を行っている。年間で100~120件もの依頼があるそうだ。中には東大のOBが「在学中にはあったが、まだあるのだろうか」と探して依頼するケースもある。

 一般的な運動サークルや音楽のサークルであれば、経験者から初心者まで様々な人がいるだろう。しかし、このサークルに入会する新入生には、襖の張り替えの経験者などまずいない。みんな初心者だ。一体、どうやって技術を習得しているのだろうか。

「見て覚える」張替えの修行

先輩からのアドバイスが書きこまれた練習用の襖

 入会すると1年生はまず先輩の張り替えの様子を見学することになっている。張り替え方は「見て」覚えなければならない。覚えることが出来たら、今度は練習に入るわけだが、この際も先輩は付き添ってはくれない。最初から張り替えの全工程をたった一人でやらなければいけないのだ。というのも、襖クラブの部室は狭く、2人同時に入ることができないからという。では、できない部分はどうやって教わるのか。これが非常にユニークだ。1年生は練習後、張り替えた練習用の襖に、できなかった部分を直接書きこみ、後日部室に来た先輩がその書きこみにアドバイスを書き加える。また部室に来た1年生がアドバイスをもとに試行錯誤する......。これの繰り返しだ。こうして半年間で50枚程張り替えることによって、ようやく先輩たちと共に依頼を受けた張り替えの現場に行くことができるのである。さながら職人の修行のようだ。

 技術を習得するまでにこれだけ真剣に練習しているという話を聞くと、部員は「伝統文化にふれてみたい」、「こうした技術を守っていきたい」といった熱い思いから入部しているのだろうなと考えてしまう。しかし、驚くべきことにほとんどの部員が「なんとなく」襖クラブに入部したという。そのため、修行が終わるまでに耐え切れずやめてしまう人も多い。修行に耐えて張り替えに従事している彼らは、いったいどういうやりがいを持って続けているのだろう。

会社のようなものだから責任は重い

真剣な面持ちで襖を張り替えている

 部長である佐々木悠さん(理学部情報学科4年)は、「この襖クラブは『会社』に近い」と言う。襖クラブでは自分たちで依頼の注文を受け、張り替えをして、頂いたお金を管理している。依頼の受注では、F-RevoCRMというソフトを使い、部員たちのスケジュール調整、見積書の作成などを効率的に行っている。そこには実際の企業と何ら違いはない。お金を受け取っている以上、失敗はできない。自身の過失で失敗した場合はもちろん自腹で張り替えることになる。襖の耐久性が弱く失敗する可能性がある場合も、きちんと依頼主に事前に説明しているそうだ。「一般のアルバイトならその場しのぎでできるものもある。でも襖の場合は、20年、30年張り替えないことが多い。ご年配の方から依頼をいただく場合は、その人たちが住む最後の日まで自分の襖が家にあると考えると、責任がある。20年、30年先を見据えて張り替えなければならない」。佐々木さんはこう話す。

 「東大襖クラブは、資材に対する知識が豊富で、施工もすごく丁寧。見えないところまで、きちんと仕事をしてくれた」と語るのは、軽井沢の民宿「いこい山荘」で働く島岡高志さんだ。「いこい山荘」は昨年、受注した依頼主だ。宿にある約100枚もの襖を、1週間かけて張り替えたという。1日中、ひたすら襖を張り替え続けたので、彼らが受けた仕事の中でもかなり印象が強かったそうだ。島岡さんは襖クラブの仕事に対し「普通の業者よりも、耐久性と見栄えが良い部材を使ってくれ、かつ料金も安く、申し分なかった」と満足そうだった。彼らが責任感を持って、仕事に臨んでいたことがよく分かる。

活動を通じて感じた「人とのつながり」

取材を受けていただいた東大襖クラブのみなさん

 部長の佐々木さんによれば、襖クラブの良いところは「いろいろな人と出会えること」と言う。「他人の家に上がり込んで、その家の人にご飯をごちそうになりながら話すなんて機会はなかなかない。その中でいろんな人がいろんな考えを持っていることを実感する」。依頼人の方と話して初めて得た知識が、次の依頼人と話す際に役に立つ。またそこで聞いたことが、さらに違う場所で話の種になるという。こうも語っている。「ご縁があって紙漉き屋の人など普通なら出会うこともない人たちとも知り合えた。こうした様々な人との出会いは、将来にも生かすことができると思う」

 さすがに佐々木さんも将来、襖に関連した職業に就こうとは考えていないという。苦労して身につけた襖貼りの技術を直接活かすことは出来ないが、その活動を通して得た「責任感」や「人とのつながり」がこれからの彼を支えてくれるだろう。

 大学生のなかにはサークルやバイトをただの「娯楽の場」、「お金を稼ぐためだけの場」としてのみ考えている人も多いだろう。しかし、せっかく貴重な大学生活を投じているのに、それだけではもったいない。一般的なサークルにも様々な役職はあるし、それを通じて責任感を得ることができる。バイトでも、共に働く仲間との繋がりを得ることができる。大事なのは、東大襖クラブのように、そこでの活動を通して「何か」を得ることができるかどうかではないか。考え方次第で、ひとつの活動から得られるものはいくらでも変わるのだから。

C班「まーきゅりー」 貴家優人 吉田早妃 岩倉大樹 西大知郎 石田彩音

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