女子栄養大学――全国のOGが出前授業
高校からの評判取り戻す

栄養士育成を半世紀以上担ってきた女子栄養大学は全国に散らばるOGを認知度向上に生かしている。卒業生であるOGを「生涯学習講師」に認定し、全国の高校で出前授業を実施。栄養学の基礎を徹底的に学べる教育体制の魅力を高校生に伝えている。
「このままではあと3年で倒産します」。着任間もない2003年の夏、広報担当の染谷忠彦常務理事は教授会でぶち上げた。
ベテランの教授はけげんな表情、若い教員はなぜだろうとのみ込めない様子で聞いていた。このときから栄養大のブランディング戦略の大改革が始まった。
倒産すると警告した理由は、大学全体の危機感のなさだった。「栄養学の世界では栄養大は最高峰だが、外では全く知られていない。大学の近くに住む人ですらこの大学を知らないくらいだった」(染谷常務理事)。社会からの認知度は低いのに学界では有力大だったので、学界で活躍する教員は認知度を高める必要を感じていなかった。
たこつぼ的な考えは高校からの評判にも影響していた。「私の高校から栄養大へは行きませんし、行かせません」。ある高校の進路指導教諭から言われた言葉に染谷常務理事はショックを受けた。多くの大学が高校の生徒や教員に大学を知ってもらうために大学から教員が出向いて出前授業をしている。しかし、栄養大は高校から依頼があっても忙しいからと辞退。認知度だけでなく評判も落としていた。
そこで考えた工程表が(1)高校からの評判を取り戻し認知度を高める(2)社会全体から知られる大学になる(3)一時の流行で終わらないようにする――だった。
高校対策としてまず取り組んだのが出前授業の拡充。しかし教授や准教授など大学の教員は日ごろの授業や研究があり全国の高校を回っている時間はない。高校生の授業に熱を上げて、本来すべき大学での教育・研究がおろそかになっては本末転倒になってしまう。
そこで協力を得たのが、全国に散らばるOGたちだ。様々な年齢の卒業生を「生涯学習講師」に認定し、各地の高校で大学での学びについて授業をしてもらう。年間400件以上の出前授業が可能になった。
加えて、当時大学としては珍しい大学のイメージキャラクターをつくりPRに活用。閉鎖的で権威的な堅いイメージから、オープンで明るく柔らかいイメージへの転換を狙った。
高校の次は社会で知られることだ。健康機器メーカーのタニタが社員食堂で提供する健康に配慮した定食メニューがブームになったとき、たまたま2つの出版社から料理本出版の依頼が舞い込んだ。すぐに引き受け、ブームに乗って注目を浴びた。
「栄養大が作る食事メニューは健康につながる」というイメージが広がり、自治体や企業との連携は年間10件を上回るようになった。一時の流行に終わらないよう、学生の保護者を集めた料理教室や大学駅伝の強豪、東洋大学陸上競技部の健康支援など、地道な活動で外部とのつながりを深めている。
東京帝国大学医学部勤務の医師、香川綾氏が夫の昇三氏と1933年に設立した「家庭食養研究会」が起源。栄養学部のみの単科大学で、学生数は約2100人。メインのキャンパスは埼玉県坂戸市に置く。7千人以上の管理栄養士を輩出した国内最大の養成校。卒業生は病院や福祉施設、自治体などで活躍している。
(桜井豪)[日経産業新聞 2017年4月3日付]
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