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[ career-働き方 ]

地方の豪族企業(4)技研製作所(高知市)
高知発、静かなくい打ち、
全社員「圧入」のプロに、
機械製造ファブレス化

地方の豪族企業(4) 技研製作所(高知市)高知発、静かなくい打ち、全社員「圧入」のプロに、機械製造ファブレス化
技研製作所が開発した無騒音のくい打ち機

 鋼鉄やコンクリートでできた杭(くい)を上から圧力をかけて静かに地面に入れていく――。東証2部上場で高知市に本社がある技研製作所は「圧入」と呼ばれる技術を生かし業績を伸ばしている。2017年8月期の連結営業利益は前期比17%増の48億円になり、4期連続で最高益を更新する。今後は高知発の技術を武器に世界の防災工事需要を狙う。

 平日の毎朝午前8時、技研製作所の社内では、社員の間でこんなやり取りが交わされる。

 「圧入時の絶対反力を構成する力は何ですか。1人ずつ順番に答えてください」と出題担当者。ある社員は「圧入機本体の重量です」と答え、別の社員が「反力くいの引き抜き抵抗力です」とすかさず回答する。

4期連続最高益

 総務や経理も含め、全社員約340人が5~6人ずつに分かれて質問を出し合ったり、文書を読み合わせたりする。「圧入施工要項」の勉強会だ。営業所や工事現場の事務所でも行われている。

 要項は圧入の原理を説明したA4判のテキスト。技研製作所の「バイブル」といっても過言ではない。すべての社員は「圧入のプロ」になるため、年に1回試験を受けなければならない。

 技研製作所がここまでこだわる圧入とは何か。

 ビルや堤防など大規模建造物の工事に欠かせない杭打ち。通常、杭を地面に入れるには、金づちでくぎを打ち付けるように、杭の上から打撃を与える方法が採用される。だが、騒音や振動が発生するため、施工できる時間帯や場所が限られる。

 技研製作所の創業社長の北村精男氏が考案した圧入では、「圧入機」と呼ばれる機械を使って圧力をかけて杭を入れる。打ち付ける代わりに、油圧を使うので騒音や振動がほとんど発生しない。技研製作所の圧入機の名称「サイレントパイラー」の由来もそこにある。

 高知県南国市の堤防補強工事の現場。技研製作所の圧入機が約12メートルもある鋼管を回転させながら地中に打ち込んでいく。騒音や振動はほとんどなく、太平洋から打ち寄せる波の音も聞こえるほどだ。シート1枚を隔てた畑では日ごろと変わらず農作業が続く。

 なぜ、そのようなことが可能なのか。

 杭を地面に入れようとすると、圧入機は地面の抵抗を受けて浮き上がろうとする。そのため、大きな力で押し込むには、それに比例した大きな重量の機械が必要だ。圧入機は、すでに打ち込んで土圧によって地盤と一体化した複数の杭をつかんでいる。その杭が引き抜かれまいとする力を利用して次の杭を押し込む。

 いいことずくめではない。最初の杭を打つには別の装置が必要だ。圧入機の価格は最も安い機種で6500万円と高価なため、騒音や振動への配慮よりも経済性を優先するような工事現場には向かない。

 だが、軽量・コンパクトな機械でも大きなエネルギーを発揮できる。機械本体の重量が約6トンでも100トンの力でくいを押し込むことができる。

 技研製作所は自社の最大の武器である圧入に磨きをかけている。

 そのための工夫の1つがファブレス化だ。圧入機の製造は機械メーカーの垣内(高知県南国市、安岡和彦社長)に任せ、自社は技術開発に専念する。圧入の勉強会を毎朝行っているのもその表れ。技研製作所の全社員の約7割が技術者だ。北村社長はもちろん、それ以外の社内取締役5人のうち3人は技術者出身だ。

 工事会社として創業した経緯もあり、技研製作所には、圧入工事を専門に請け負う技研施工(高知市)という子会社がある。技研製作所が新たに考案した工法や機械は、技研施工が最初に実証施工する。不具合や改善提案は技研製作所の技術者に伝える。技研製作所の幹部は「より実用に即した開発・改善ができることが強みだ」と語る。

 技研施工は難工事を積極的に引き受けている。JR高崎線が上を走る武蔵水路(埼玉県鴻巣市)の改修工事では、水面から約1.5メートルの上に鉄橋があるなか、圧入機を使って鋼矢板を打ち込み、止水壁を構築した。

 技研施工と連携し、技研製作所は上部が狭い空間でも杭を圧入できる装置を開発し、難工事をやり遂げた。こうした課題を解決することで、圧入の技術水準が高まり、他社を引き離していく。

海外展開にらむ

 圧入機のユーザーである工事会社を支援する仕組みも設けている。「GIKENトータルサポートシステム(GTOSS)」と銘打ち、圧入機の使い方を教えるだけではなく、経理や社員教育といった間接業務の手法も指南している。

 施工技術の水準が高い工事会社には、まだ一般には販売していない最新機器なども貸し出し、新工法の普及の役割を担ってもらう。支援対象の工事会社の受注力が高まれば、圧入機の売り上げも増えるという好循環が生まれる。

 技研製作所は16年8月期の連結売上高220億円のうち、9割近くを国内で稼いでいる。将来は海外の売上比率を7割に高める考えだ。

 津波対策の堤防を建設したり、道路や水路といった都市基盤を整備したりするときに必要となる杭打ちの需要を狙う。すでに中国・上海や英国・ロンドンなど海外の拠点は6カ所ある。来年は政府開発援助(ODA)の枠組みでミャンマー政府に機器を納める。

 技研製作所は液状化地盤などで圧入を実演することで優位性を実感させる施設を建設している。17年3月に完成する予定だ。国内外から建設や防災関係の人を呼び寄せる。北村社長は「高知を圧入のメッカにしたい」と意気込んでいる。(高知支局長 高田哲生)

北村精男・技研製作所社長 インタビュー

 杭(くい)に圧力をかけて地中に入れていく技術を武器に業績を伸ばしている技研製作所。同社の今後の戦略について北村精男社長に聞いた。

 ――圧入技術の普及が加速しています。

 「圧入の応用範囲は広い。円筒型の地下駐輪場も建設している。圧入機はまだ軽く小さくできる。いずれは持ち運びできるようにしてみたい」

 「当社の技術は欧米に比べて20~30年進んでいる。それでも優位を保つにはペダルを踏み続けなくてはいけない。若手からの提案には、とにかくやってみろというスタンスをとっている」

 ――製品のデザインにもこだわっています。

 「製品には文化性や機能美がないとだめだ。人間は文化を高めるために生まれてきた存在だ。製品づくりや工事も同じだ」

 ――海外売上高比率を7割に引き上げる目標を掲げています。

 「世界で大規模な災害が頻発し、東南アジアを中心に防災への関心は高まっている。防災対策は世界で敵をつくらない。どの国も利害から離れて一致して取り組める」

 ――圧入を国内外に発信するための施設を建設する狙いは何ですか。

 「高知は多くの災害に見舞われてきた。高知県人はそれを乗り越えて進んできた。圧入を中心とした防災技術を発信するのにふさわしい場所だ」

 「建設機械のルーツの大半は欧米からのものだった。だが、圧入は日本発・高知発の技術だ。付加価値の高い機械をつくることで高知という地方のハンディキャップもなくせる」
(聞き手は高知支局長 高田哲生)[日経産業新聞 2016年12月13日付]

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