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資格で考えるキャリアプラン(2)通訳、AI時代も活躍する条件は?

戸崎肇 authored by 戸崎肇首都大学東京特任教授・経済学者
資格で考えるキャリアプラン(2) 通訳、AI時代も活躍する条件は?

 日本では国際化への対応の必要が叫ばれ、語学力の向上が重視されています。企業で海外勤務を目指すにはTOEICで高得点をとらなければなりませんし、語学力がなければ就職活動でも不利になります。語学力を最大限活かし、プロとして活躍する道としては、通訳になるという選択肢がありますが、キャリアとしての見通しはどうでしょうか?

 語学のプロとしての通訳士は、かつては国際的な活躍を夢みる多くの若者たちにとってあこがれの職業でした。しかし、今や人工知能(AI)による自動翻訳も高度なものとなり、通訳機能も開発されてきています。これまでのような通訳士の役割が今後どこまで必要とされるか疑問視する見方も出てきました。その一方で、目下の時点では、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催に向け、通訳士の不足が問題となっています。

五輪控え合格率引き上げ

 職業としての通訳士は、正式には「通訳案内士」と言い、国家試験に合格して初めて免許を取得し、営業ができる国家資格です。以前は合格率が10%を切るような「超難関」として位置づけられる試験でした。しかし、このままでは供給が足りないといった議論がなされ、近年は通訳案内士になるための国家試験の合格率が大幅に引き上げられてきました。ここ数年は合格率が以前よりも高めに推移しており、2013年度には25.5%(英語、仏語など10カ国語)にまで緩和されています。

 その結果、レベルの低下も懸念されるに至っています。さらには、最近法律が改正され、通訳士の免許を持っていなくてもガイドとして報酬を得てもよいということになりました。こうして、「通訳案内士」としての免許を持っていても、ただ一般的な語学力があるというだけでは、職業として生活を立てることは極めて難しくなっています。

司法通訳なお不足

 しかし、高度な専門性を必要とする通訳業務については、まだまだ社会の需要に供給が追い付いておらず、そうした業務をこなすことができる人材の育成が急務となっています。

 その代表的なものの1つがが司法通訳(法廷通訳、警察通訳を含みます)です。日本でも外国人による事件、犯罪が増加しており、取り調べや裁判の過程において、通訳士の役割が重要になっています。法律の専門家だといっても高度な語学力を有しているわけでは必ずしもないからです。どの段階であろうと、もし当事者との間で不十分な意思疎通しかできなければ十分な審議はなされず、公正な判断はできません。そして、そこに専門的知識のない、あるいは十分な能力のない通訳士が介在し、不正確な通訳がなされてしまえば、裁判の公正性をさらに歪めることになり、問題をより深刻にしてしまいます。実際、そうしたケースは起きてきているのです。

 それに、外国人による犯罪の場合、その犯人の国籍はアジア中心にまちまちであり、英語が通用しないケースが多くなっています。したがって、通訳を行う側も、英語以外の高度な語学力が求められることになります。その一方、通訳案内士の資格保有者は圧倒的に英語が専門です。その需要の大きさから言えば当然の結果ともいえますが、ダイバーシティ(多様化)が進む中、英語以外を専門とする通訳士の育成も重要な課題です。

 だからといって、ただでさえ英語以外の通訳の一般的な需要が限られている上、現時点では司法の現場で仕事がそれほど多くあるわけでもないでしょうから、英語以外の言語を専門とする通訳士を無理矢理大幅に増加させることはナンセンスです。いざという場合に備えて、多様な言語において、法的分野に詳しい通訳士をいかに確保していくか。そのためには、積極的に新たな分野に進出し、通訳士としての成功を目指す人々の裾野を広げていくしかないでしょう。普段は通常の通訳をこなしながら、いつでも法律関係の通訳の需要に応えるようにしておけば、厳しい競争のある通訳業の中でも安定し、よくすれば恵まれた生活を送っていくことも可能となるからです。

高額報酬期待できる医療通訳

 次に医療通訳について考えてみましょう。こちらは今後、安定した収入、場合によっては高額の報酬が十分に期待できる分野です。

 現状からは、急増する外国人観光客への対応の面から、医療通訳の必要性が唱えられています。しかし、将来的には、特に来日する富裕層への対応といった面で注目されることになるでしょう。

医療通訳ができる職員を配置する病院が今後増えそうだ(東京・渋谷の広尾病院)

 日本に来る外国人旅行者(インバウンド)は、今年に入っても昨年を上回るペースで増加していますが、このままどこまでも増加させるには、宿泊施設や空港など、インフラ整備の遅れなど、受け入れ体制上無理があるとも言われています。

 そのような中、訪日外国人の受け入れ政策上、「数」を追い求めるのではなく、「質」を追求すべきだということが主張されています。つまり、日本国内でより多くのお金を使ってくれる層をもっと積極的に取り込んでいこうということです。

 その1つとして注目されているのが「医療ツーリズム」です。日本の高い医療技術に加え、快適な滞在環境とエンターテインメントの提供、そして日本が誇るホスピタリティで世界の富裕層に家族を伴って日本に来てもらい、長期滞在しながらゆっくりと医療サービスを受けてもらうことで多額の消費を促そうという考えです。

 その際に鍵になるのが、主たる目的となる医療サービスの提供者であるお医者さんや看護師さんたちと利用者との間のコミュニケーションです。この場合、ただ意思が通じればいいというのではなく、顧客の細かいニュアンスまでくみ取って、希望を先取りしたホスピタリティを実践する必要があります。したがって、医療ツーリズムに関わる通訳士は、高度な語学力と医療知識に加え、臨機応変な対応が求められます。そして、その能力が認められれば、高所得も当然期待できるでしょう。

 それに、法廷関係の通訳に比べて、医療ツーリズムの分野においては、英語の需要がまだまだ大きいだろうと考えられます。この分野には、野心的な通訳士予備軍にとっては、よりアプローチがしやすいのではないかと思われます。

 以上、通訳の道にも、さらなる国際化の進展によって新たな可能性が開かれてきたことをお伝えしました。語学が得意な方は、是非積極的にこうした新たな分野に挑戦してみることをお勧めします。なお、これらの専門的通訳になるためのガイド本としては、イカロス出版から「新版 医学・薬学の翻訳・通訳 完全ガイドブック」が出版されています。是非目を通してみるとよいでしょう。

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