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フィットネスクラブ売上高、
個人消費の変調映す

フィットネスクラブ売上高、個人消費の変調映す

 景気は良いのか悪いのか、今後はどうなりそうか。暮らしや仕事に影響する情報なので、気になりますよね。統計学や数学の専門知識がない人でもヒントを見つけるコツはないでしょうか。実は経済分析で成果をあげている専門家も身近な事象を観察して日本経済の体温を測り、仕事に生かしています。このコラムではエコノミストやアナリストがいつも気にしている身近な指標や事象を紹介します。第1回はみずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストです。

 週末は自宅近くのプールで泳いで健康作りに役立てている上野さん。経済産業省のホームページで毎月公表されるフィットネスクラブ業界全体の売上高合計値の推移をよくチェックしています。年金の支給開始年齢が上がるなか、長く働き続けるためにも健康作りに関心を持つ人は増える傾向にあります。ただ、自分に合った運動の仕方が分からないという人も多いはず。フィットネスクラブに通えば、プロに質問しながら多様な機器や方法を試せます。会社帰りに立ち寄れるようなコースも増えています。お金持ちが通う場所という一昔前のイメージは変わり、利用者のすそ野が広がってきました。

 ただ、会費やレッスン代が毎月1万円程度かかる場合もあります。食費などに比べると優先順位は低く、選択的消費、つまり家計に余裕がある場合に払う項目です。

中間層の「余裕度」と連動

 上野さんはフィットネスクラブ業界全体の売上高の増減は中間所得層の家計の余裕度合いとの連動性が高いと指摘します。海外旅行よりハードルは低く、衣食住が足り、給与が増え、現在や将来に前向きな気分を持てる時に払うものだからです。普通の人がお金を使いたいと思うようになれば、多様なモノやサービスの売れ行きが良くなるはずです。フィットネスクラブ売上高は個人消費や景気の動向を知る物差しの1つなのです。

 経産省が15日公表した3月のフィットネスクラブ売上高速報値は前年同月比で0.2%増えました。今年に入り、売上高はほぼ横ばい圏で推移しており、2月は小幅ながら減少しました。併設の飲食施設での支払いが減っています。

 1~3月は個人消費が持ち直したのかと見えるマクロ経済指標もありますが、家電や自動車など耐久消費財の買い替えが主因。その分、サービスに払うお金は節約しています。上野さんは「消費者の低価格志向は強く、財布のヒモは依然として固い」と警戒します。

 安倍晋三首相は企業に連続で賃上げを要請しているものの、ベースアップに慎重な企業も目立ちます。社会保険料引き上げの影響で手取り収入が思うように増えないとの声もあります。円相場下落で輸入依存度の高い原料の調達コストが上昇しており、加工食品や乳製品の値上げも相次いでいます。物価の動きを考慮した実質賃金はあまり増えていません。アベノミクス始動後も生活水準は上向いていないのです。

 高齢化の影響もあり、社会保険料はさらに上がる見込みです。フィットネスクラブ売上高の動向は、消費者が暮らしは今後も良くならないと身構えていることを示唆しているのかもしれません。

 フィットネスクラブ売上高は経産省の特定サービス産業動態統計調査に含まれており、誰でもインターネットで確認できます。4月分の速報は6月8日午後に公表の予定です。
(映像報道部 毛利靖子)[日経電子版2017年5月16日付]

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