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お悩み解決!就活探偵団2018将を射んとすればまず「親」
就活生囲い込み熱気

authored by 就活探偵団'18
お悩み解決!就活探偵団2018 将を射んとすればまず「親」 就活生囲い込み熱気

 「親が就活に口出ししてきます。過保護じゃないでしょうか」――。就活探偵団には毎年こんな相談が寄せられる。少子化で子どもを大事にする親が、「何か力になりたい」と過干渉になるケースは後をたたない。企業側も、こうした傾向を見逃さない。内定辞退を避けるために、親ぐるみの採用活動が過熱している。

「親と面接の練習」に賛否両論

 都内私大A君 「僕は父に毎日相談しているよ。ビデオ通話で面接の練習相手にもなってもらってる」

 都内私大Bさん 「え?うそでしょ!?私は親に1カ月に一度電話すればいいほう」

 5月、就活探偵団が開催した学生座談会で、ひときわ議論が白熱したのが「親の関与」だ。大手商社を中心に就活を進めるA君は現在、都内で下宿中。中部地方の実家に住む両親には全面的にサポートを受けているという。Bさんが、「面接の練習なら友達とすればいいじゃない?」とつっこみを入れても、「友達よりも大人の意見があるのはありがたいと思う」と意に介さない様子だ。

イラスト=篠原真紀

 A君を擁護するのはやはり男子学生の都内国立大C君だ。「僕も実家の親に就活の相談をしている。銀行勤めで社会人の先輩としても自分よりもわかっているから、信頼している」。一方、親の過度な関与に違和感を覚えるBさんには、やはり女子学生の九州私大Dさんが援護に入った。「半年前、父親に『おまえは何も考えていない』と言われて、かなりむっとした。それ以来、ずっと口を聞いていない」

 「親の関与」是か非か――。男女できれいに分かれたのは偶然としても、就活で学生が親の意見を尊重して進路を決める、あるいは我が子の就職先の決定に親が関わる、という傾向はますます強まっているようだ。人材サービスのビズリーチ(東京・渋谷)が今年行った調査では、実に7割の学生が親の意見を尊重すると回答している。採用の現場では、「親から反対されたから」などという理由で学生が内定を辞退するケースが増え、企業が内定者に「親にも確認したか」を問う「オヤカク」という言葉も定着しつつある。

親に説明会 悪いイメージ払拭

内定者の家族らを対象にした国際自動車のオープンカンパニー

 「タクシーの運転席ってどうなっているのですか」「防犯対策は大丈夫?」――。中高年の参加者らが口々に尋ねる。タクシー大手の国際自動車(東京・港)が毎月開いている説明会、「オープンカンパニー」だ。集まったのは、同社の新卒内定者や内定前の学生の親や家族。会社やタクシー運転手の仕事、実際のタクシーの車両やコールセンター、車両整備工場などを見学する。「タクシー業界に抱いていたイメージがガラッと変わった」「車はとても清潔で気持ちいいと思った」と口々に感想を述べた。

 タクシー運転手は高齢化が進み、人手不足が深刻になっている。国際自動車は2010年から運転手の新卒採用を始め、17年には117人を採用、18年は150人の採用を計画する。ただネックになっているのが、「仕事がきつい」「収入が少ない」「おじさんが多い」などの悪いイメージだ。人財採用研修担当の川田政執行役員は「残念だが、学生が親の反対で内定を辞退することもあった」と話す。

 こうした背景からオープンカンパニーを始めたのは2015年。新卒内定者の家族だけでなく、女性を含む中途採用者の配偶者や子どもも招き、タクシー運転手の働きやすさなどを伝えている。「教育制度や残業しないで済む勤務シフト、他業種に遜色のない収入、あるいは安全面で車両の防犯装備など、実態はイメージとは違うことを知ってもらう。家族の不安を払拭することで、学生が当社で働くことに理解を得られ、応援してもらえるケースが多い」(川田氏)という。

社長が内定者の家庭訪問

 採用の売り手市場が続き、人材獲得に腐心する企業が、親をターゲットにする傾向が強まっている。就職情報サイトのディスコ(東京・文京)が今年2月に企業向けに行った調査では、7.3%が「保護者対策」をしていると回答した。その数は昨年からは4割増、一昨年に比べて約2倍になった。また採用に関して学生の親からの問い合わせがあるかとの問いには、12.7%が「ある」と答え、1000人以上の企業にいたっては18.5%だった。

 「責任を持って娘さんをお預かりいたします」「娘をよろしくお願いしますね」。動画制作ベンチャーのローカス(東京・渋谷)の滝良太社長は昨年11月、宮崎県日南市に住む竹平登司一さんの家を訪れた。竹平さんは納得した表情で滝社長と握手。その後は居酒屋を3軒はしご。深夜2時まで飲み明かし、すっかり意気投合した。

 滝社長が結婚の許しをもらい彼女の実家を訪ねたわけではない。2017年入社の新卒採用で内定を出した竹平まりのさんの実家を訪問したのだ。

 同社は、内定を出した学生の実家を、社長が訪問する取り組みを続けている。滝社長が自ら事業内容や創業の経緯などを語る。父の登司一さんは「将来のビジョンをきちんともって信頼できる経営者だ」と滝社長を評価した。これまでに、北海道から九州まで十数人の内定者の実家を「家庭訪問」。そのかいあってか、内定辞退はゼロだという。

 2012年に初めて新卒で内定を出した学生が「父親が『聞いたこともないベンチャー企業で大丈夫か』と不安がっている」と言った。それを払拭するために、本人の実家がある長崎の佐世保に出向いたのがきっかけだ。

「数ある企業の中でウチを選んでくれた。責任がある」。会社の規模が大きくなっても続けていく方針だという。

入学初日から就活説明会

法政大学は親向け説明会を開いて7年目。発端はリーマンショック後の就職難だった

 大学も、保護者の就活への関心の高まりを敏感に感じている。法政大学で入学式が行われた4月3日、東京・市ケ谷キャンパスでは、時間帯を2回に分けて新入生の保護者向け説明会が開かれた。合計120人の保護者が集まった目的は、授業や部活動、サークルの話を聞くことではない。入学初日から、早くも就活の市場環境や同大の実績、キャリアセンターの取り組みなどを知るためだ。

 この説明会は今年で7年目。キャリアセンター市ケ谷事務課の内田貴之課長は、「7年前の開始時はリーマン・ショック後で、内定取り消しや就職難が問題となっていた。そんな環境下でも安心してもらうよう大学の就職支援について紹介していたが、今は売り手市場のため、どのような企業や業界に就職しているかや、個別支援に保護者の関心があるようだ」と話す。

 早稲田大学でも保護者のケアを重要視している。キャリアセンター長の佐々木ひとみ氏によれば「当学には全国各地に父母会がある。総長や理事が父母会を回り、大学の現状を報告するが、キャリアセンターの職員も同行することがある」という。

「自分が決めた」と納得できるか

 「面接でたくさん落とされているらしい。干渉しないようにしているけれど......」(女子学生の父親)、「親として最低限のことは知っておきたいけれど、娘が行きたい会社なら何も言わずにOKするつもり」(女子学生の母親)――。親も子どもが自分にとやかく言われたくない気持ちを察している。

ビズリーチは親向けに様々な就活の事例を紹介するセミナーを開催した(2月、都内)

 半面、電通での過労自殺や東芝の経営危機など「有名企業でも安心できない」という心理が、親を動かす傾向もある。「私は就活で苦労した経験はないが、時代が違う。危なそうだったらすぐにやめさせるつもりだ」(女子学生の父親)。また、「大学のゼミで、順調に就職先が決まった先輩を見て、大丈夫だろうとたかをくくっている」(男子学生の父親)と、売り手市場での「慢心」を心配する声もある。

 冒頭、「親の関与」肯定派だった男子学生のA君とC君は、それぞれ大手商社、大手メーカーから内定をもらった。親への相談が功を奏したのかは定かではないが、社会人の先輩として、また自身の理解者の一人として、ともに就活を進めた。

 他方、「自分の将来は自分で決めるのが自立した大人だ」という学生の意見も尊重したい。企業もそうした学生に一目置くだろう。ディスコの調査では、9割以上の企業が「就活は子どもに任せるべき」と考えている。大事なのは、入社後に思い通りにならないことがあっても親に責任転嫁せず、「自分が決めたこと」と納得できるかどうかだ。
(夏目祐介、鈴木洋介、斎藤公也、松本千恵、太田順尚、桜井豪)[日経電子版2017年6月15日付]

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