日本経済新聞 関連サイト

OK
[ skill up-自己成長 ]

開成を蹴っても都立西高
ハーバードの授業体験も
都立西高校の宮本久也校長に聞く

開成を蹴っても都立西高ハーバードの授業体験も都立西高校の宮本久也校長に聞く

 全国屈指の名門公立高校、都立西高校(東京・杉並)。かつてはライバルの都立日比谷高校と東大合格者数を競い、100人以上が進学した実績もある。私立の中高一貫校が台頭するなか、都立高は不振に陥ったが、再び浮上。開成高校など最難関校を蹴ってまで進学する生徒も増加している。「文武二道」の西高を訪ねた。

西高、東大アメフト部をけん引

 「足がつりました」――。5月中旬、東京・杉並の閑静な住宅街にある西高の広いグラウンドで、アメリカンフットボール部の選手たちが猛練習していた。足がつるなどは日常茶飯事だ。西高の宮本久也校長は「5月下旬からの関東大会出場が決まりましたからね」とうれしそうに話す。西高アメフト部が誕生したのは1948年で、高校アメフト界の草分け的な存在だ。

東京・杉並にある都立西高校

 同部は、関東学生1部リーグの強豪、東大アメフト部でも一目置かれている。「東大のアメフトは創部60年ですが、西高と戸山の両都立高校出身者が引っ張ってきたんです。現在の主将の遠藤翔くんも西高出身。彼は数少ない高校時代からの経験者で2年の時から試合に出ています。今は開成や麻布高校の出身者が多いですが、都立高が復活していますから、また西高や戸山の出身者が増えてくるんじゃないですか」と東大アメフト部前監督の竹之下健三氏は話す。

 東大ではアメフトだけでなく、野球部でも西高出身者が活躍している。16年に東京六大学野球で、桐生祥汰さんは、東大野球部から12年ぶりにベストナインに選出された。西高ではテニス部も度々都立戦で優勝するなど、とにかく部活の盛んな学校だ。

部活加入率141%

 「部活の加入率は141%(2016年度)です」(宮本校長)。文化系の部は兼部することも多く、結果的に100%を超えているという。運動部のなかには朝練、昼練、そして午後の部活と1日3回も練習にあてる生徒もおり、授業中もスポーツウエア姿が目立つ。自由な校風で、部活が盛ん。とても進学校とは思えぬ雰囲気だ。

 進学実績は全国の公立高校としてはトップクラスだ。1学年の定員は320人。17年の合格実績では東大が27人、京都大学が14人など国公立大学は162人。東大理科3類や京大医学部医学科など最難関の医学コースへの合格者も出している。東大合格者では公立トップの日比谷高校を下回るが、自由な校風で知られる京大の合格者は過去5年の累計で70人と首都圏の高校では断トツの実績だ。

部活重視、受験専念は秋から

都立西高の宮本久也校長

 しかし、東大の現役合格率は5割台と決して高くはない。西高出身で東大工学部4年の男子学生は「アメフトの遠藤も、野球の桐生も西高の同級生です。僕もそうですが、朝から晩まで部活に明け暮れたので、受験勉強に専念できたのは秋の文化祭が終わってから。結局1浪しました。恥ずかしながら今も運動ばかりやっています」と話す。

 西高は同じ都立の日比谷高校や国立高校とともに人気がうなぎ登りだ。宮本校長は「第1志望で西高に入ってきた生徒は95.2%と極めて高い数字です。開成高校など最難関校に合格しながら、西高に進学した生徒は30人前後いますね」という。第1志望の理由は1位が「自由な校風」で82.6%、「雰囲気がいい」が68.6%、「進学実績がいい」が52.1%だという。「進学実績よりも自由な校風を重視している。だから京大志向の生徒が多いのでしょうか」という。

 「文武二道」をモットーとする西高。スポーツなどの部活を大事にしながら、授業力をアップしている。教員は54人だが、レベルは高い。「約1万人いる都立高の教員のなかから、有能な人材が都立の重点校を希望し、その中から面接や模擬授業などを経て選ばれる」。宮本校長は都庁で長年、都立高の強化策に取り組んできた。現在は全国高等学校長協会会長の要職にもある。

 それにしても西高はなぜ人気が高いのか。難関大学への現役合格などにこだわれば、「お得な学校」とは思えない。ただ、大手進学塾関係者は「開成など私立の中高一貫校は、中学から入学組は高2までに主要科目の課程をほぼ終了しますから、現役合格では断然有利です。ただ、高校から入学になると、むしろ大変になる。一方で、都立の重点校は、優秀な教師をそろえ、進学実績も伸びている。日比谷と違い、西高は部活重視で浪人は多いですが、体力と精神力を磨いているので、大学新卒の就職には強いという話も聞きます」という。

 さらに西高は新たな「付加価値」も生み出そうとしている。14年春から西高はハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)など米国のトップ大学で、生徒に体験授業を受けさせる独自プログラムをスタートした。

ハーバード・ビジネススクールを体験

ハーバード大学の授業に参加した西高生(2014年3月)

 「第1回目はハーバード・ビジネススクールの本物の授業に参加しました。夏休みを利用したキャンパスツアーを実施している高校はたくさんあります。しかし、実際に授業を受けたり、研究活動に参加したりする試みはほとんどやっていないと思います」と宮本校長は語る。実際の体験学習は春休み中の10日間だが、前年の11月から4カ月間は事前研修にあてる。生徒たちは自ら集まって英語力を磨いたり、「アメリカ研修ジャーナル」と呼ぶ「新聞」を発行したり、自発的に学習するという。

 募集人数は40人だが、希望者は80人前後に上る。「実は西高生の6人に1人は帰国子女です。多様性のある高校で、グローバル志向が強い生徒が多いのですが、海外経験のない生徒もどんどん挑戦している。最近ではこの海外研修に参加したいと西高を志望する生徒も増えています」という。宮本校長は、埼玉県立浦和高校など首都圏の有力公立高校と組み、さらに海外の教育機関との連携を深めようとしている。

 西高は、政界や経済界、文化・学術界に多様な人材を輩出してきた。旧国鉄の分割民営化を推し進めたJR東海名誉会長の葛西敬之氏やヤマトホールディングス会長の木川真氏のほか、医師で作家の鎌田實氏、言語学者の金田一秀穂氏、小説家の阿刀田高氏など多士済々だ。自由な校風で部活重視の西高。日比谷とともに、都立高復活の象徴的な存在といわれるが、グローバル化でも一歩前進しようとしている。
(代慶達也)[日経電子版2017年5月27日付]

「日経College Cafe」のお勧め記事はこちら>>