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[ liberal arts-大学生の常識 ]

アニメソングが聴き放題
専門店化する音楽配信

アニメソングが聴き放題専門店化する音楽配信

 アニメソング(アニソン)に特化した音楽配信サービスが注目を集めている。音楽配信の世界では、好きなときに好きなだけ聴ける「聴き放題」が広まってきたが、「本当にほしい曲が見つからない」といった不満の声もある。アニソン特化型サービスは、曲数では劣っても、熱烈なファンのニーズを拾い上げることで利用者を獲得。「何でもそろう」が常識だったネットサービスに一石を投じている。

関連10社が大同団結

 5月13日、国立競技場の代々木第一体育館が約9000人のアニメファンの熱狂に包まれた。アニソン配信サービス「ANiUTa(アニュータ)」が開催したアニソンだけの音楽ライブ「あにゅパ!!」だ。

アニソンだけの音楽ライブ「あにゅパ!!」には約9000人が駆けつけた(5月13日、東京都渋谷区の国立代々木競技場第一体育館)

 出演したのは「Wake Up, Girls!」「Aqours」など。一般的な知名度はまだ低いが、分かる人にはたまらないラインアップだ。「会場で知り合った人と出演者の話で盛り上がれた」。都内から駆けつけた大学生(21)は興奮気味に話す。見ず知らずの人たちでも「アニメ好き」という同じ趣味でつながり、会場には他で感じられないような高揚感があった。

 アニュータは3月に始まったばかりの聴き放題サービスだ。月額600円で好きなだけ聴ける。「機動戦士ガンダム」「ラブライブ!」「マクロス」「バンドリ!」など人気アニメの楽曲が定番から最新曲まで勢ぞろいし、アニソンの世界にどっぷり浸れる。ビクターエンタテインメント系のフライングドックや、バンダイナムコ系のランティスなど、アニソン関連の10社が大同団結して立ち上げたからこそ可能になった濃密な内容だ。

 音楽業界で聴き放題が広がったのは2015年からだ。米アップルや英スポティファイといったグローバル大手が相次いでサービスを開始。世界中からかき集めた数千万曲を月1000円程度で提供している。

 かなり割安感が強いように思えるが、日本では聴き放題の文化はあまり根付いていない。いくら数千万曲を集めたといっても、「本当に聴きたい曲がない」「楽曲を探し出すのが面倒」といった不満があるからだ。

 こうした状況をみたアニュータは、世界大手と正反対の道を行く。配信曲数は5万曲余りで、アップルやスポティファイに比べればごく僅か。それでも、アニメファンに確実にささる濃密な5万曲は強い。有料会員の85~90%が男性という利用者は、1日に平均24曲を聴くという。この頻度はライバルのサービスを大きく上回り、関係者は「通常の聴き放題にはない異常値だ」と胸を張る。

 人気声優が好きなアニソンを紹介したり、アニソンイベントのチケットを先行販売したり。アニュータはアニメファンだけに絞るからこそできる企画を次々と用意する。立ち上げを主導したフライングドックの佐々木史朗社長は、「総合店が主流の現代でも、電車賃を払って通いたいレコード専門店はある」と強調する。

オタクグッズだけのフリマアプリも

「アニュータ」は発売直後の最新曲もいちはやく配信し、アニメファンを引き付ける(スマホの画面)

 「総合店」から「専門店」への流れは、実は音楽配信だけではなく、ネットを含めたサービス全体のトレンドになり始めている。

 例えば、フリマアプリのメルカリ(東京・港)。新たに5月から書籍やCD・DVDに特化したフリマアプリ「メルカリ カウル」を始めた。同様に、A Inc.の「オタマート」はオタクグッズだけのフリマアプリだ。類は友を呼ぶ。専門だからこそ、商品の埋没を防ぎ、商品の価値を本当に理解してくれる相手に買ってもらえる。

 専門化の傾向は小売りや外食産業でも起きてきた。品ぞろえで勝負する総合スーパー(GMS)やファミレスよりも、特定の商品を目玉にするアパレル店や牛丼店が人気を集める。力点を定めることにより、高品質で割安な商品をつくることができ、消費者側にも「なぜその店を選ぶのか」という動機が生まれる。

 すべての消費者が何かしらの趣味を持ち、しかもその嗜好が細分化している現代の日本は、「1億総オタク社会」とも呼ばれる。心理学の観点では、人は選択肢が多すぎると正しい選択ができずに幸福度が下がってしまうという。カギになるのは、ターゲットを絞り込み、ファンクラブを運営するような目線でサービスを作り込めるかどうか。八方美人で総花的なサービスでは、いずれ淘汰の波にさらされるだろう。
(企業報道部 新田祐司)[日経電子版2017年6月2日付]

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