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liberal arts-大学生の常識

天才でなくても、
顧客が気づかないニーズ探り出せる

野口功一 authored by 野口功一PwCコンサルティング パートナー
天才でなくても、顧客が気づかないニーズ探り出せる
撮影協力:清泉女子大学

 学生と話す機会があり、質問を受けた。彼は「日本企業と成功している欧米企業の製品やサービスの最大の違いは、顧客視点でものづくりをしているかどうかではないか」と語った。

 彼がお金を払って利用しているスマートフォン(スマホ)や電子商取引(EC)サイトは米国企業によるものであり、いかに顧客が満足するかという視点でつくられているのかを感じるそうだ。一方「日本企業の製品やサービスは『自社の技術力がきっと顧客の役に立つであろう』という思い込みや勘違いでつくられているのではないか」と厳しく指摘していた。

 もちろん、日本企業も顧客志向を目指している。「顧客視点」や「顧客満足」という話は、私が駆け出しのコンサルタントだったころから言われ続けており、ビジネスの常識となっている。昔のように技術オリエンテッド(技術ありき)で製品をつくって売れる時代は終わっている。まず顧客のことを考えなければならないというものだ。だが、彼はこの考え方が日本企業からは感じ取れないと言うのだ。

 顧客志向を心がけているのに実現できていない原因として、目線やものの考え方があると考えられる。

 顧客のことを本気で考えているつもりでも、自分の見やすい視点でしか顧客を見ておらず、本当に顧客が望んでいるものは何かが見えてないことがないだろうか。技術オリエンテッドにならないように気をつけていても、同じ側面から物事を考えてしまうと、技術オリエンテッドに戻ってしまうこともある。

 同じ空を見ても、地上から空を見上げるのと宇宙から地球の空を見下ろすのとでは、見えてくる景色はまったく違う。自分が遠くを見ていてそこに何もないように思えても、実はその先に崖があり、崖の下には大きな町があるかもしれない。海に浮かぶ小さな氷山を見ていても、実は海中に隠れている部分がとてつもなく大きな塊なのかもしれない。まずは自分が持っていたこれまでの視点を捨て、上から見たり、反対側から見たりすることが大事である。

 難しいのは、顧客が「これがあると便利だ」と言っていることでさえ、実は違っているのかもしれないことだ。コップに半分の水が入っているのを見て「半分しかない」と思う人もいれば「半分もある」と思う人もいる。顧客志向にはそもそも正解がないことが多いのである。

 顧客も気づいていなかったニーズを探り出すのが本当の顧客志向である。だが、これは自分の意識をかなり変えないとできない。「天才」と称されているシリコンバレーの経営者はこのような考え方がおのずとできるのであろう。

 彼らは物事を反対側や逆さから見たり、人が想像できないような未来を予見したりすることが得意であり、周囲が理解できないことも考えていく。そしてその能力は非常に属人的であると感じる。だからこそ「ちょっと変わった人」と思われてしまうのである。

 最近ではこうした能力を組織に根づかせるための「デザインシンキング」という思考方法が注目されており、日本でも普及し始めている。天才のようなことができなくても、組織の仕組みや個人のちょっとした意識改革で似たようなことが可能となる機会はたくさんあるのだ。

 今までの常識をまずは捨ててみて、顧客の望んでいそうなものを裏返してみたり、逆さにしてみたり、高い視点から見てみたりして、本当の顧客志向を目指してみてはいかがだろうか。
[日経産業新聞2017年5月23日付、日経電子版から転載]

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