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[ career-働き方 ]

地方の豪族企業(5)島精機製作所(和歌山市)
ユニクロがホレた編み機
革新ニット縫い目なし

地方の豪族企業(5) 島精機製作所(和歌山市)ユニクロがホレた編み機 革新ニット縫い目なし

 カジュアル衣料「ユニクロ」のファーストリテイリングとタッグを組む企業が和歌山市にある。編み機メーカーの島精機製作所だ。島精機の編み機は、縫い目のないニットウエア「ホールガーメント」を編み上げる。着心地が良く、デザインの自由度も高い。ファーストリテイリングの商品開発・販売力を味方に付けて、国内繊維産業の復活を目指す。

 和歌山市にある島精機の本社工場。「ニードルベッド(針床)」と呼ばれる部材に従業員が編み針を手作業で5本ずつ並べていく。1つの編み機に設置する編み針の数は機種によっては3600本に達する。そのうちの1本でも不具合があれば縫い目のないニットウエアをきちんと編み上げることはできない。

 この作業をあえて手作業にしているのには理由がある。機械が見逃してしまうわずかな針の不具合でも、熟練の技を持った人は見つけられるからだ。島精機の島正博社長は「人間の優れた感覚は微細な違いをすぐに見つけてくれる」と語る。

いきなり完成品

 島精機の編み機の特徴は縫い目がないニットウエアを作り出せることにある。2015年に公開された映画「007」シリーズ「スペクター」。主役のジェームズ・ボンドを演じたダニエル・クレイグ氏がかぶっていたニットのスキー帽子は、今も子ども用として英国で人気がある。この帽子を生み出したのが島精機の編み機だ。

 縫い代(しろ)がないので、着脱するときに頭に引っかかる感覚はほとんどない。頭皮に与える刺激も少なく、長時間かぶっていても違和感を持たずに済む。

 セーターに代表されるニット製品の生産では、まず、胴体の前部分や後ろ部分、袖といったパーツを作り、最後にそれらを縫い合わせて完成させる。だが、島精機の編み機は1着を丸ごと編み上げてしまうので、いきなり完成品に近い形で製品が出てくる。

 縫い目がなければ裁断の際に出るロスがない。縫い目を隠すための裏地も不要になり、無駄な原料を使わなくて済む。軽くなるうえ、ごわつきがなく美しいシルエットが実現できる。

 島精機の設立は1962年。手袋を編む機械のメーカーとしてスタートした。縫い目のないニットウエアを生み出す無縫製型コンピューター横編み機の製造・販売を始めたのは95年だ。

 開発のきっかけはささいなことだった。

 ある日、島社長が手袋を上下逆さまにしたとき、タートルネックのセーターに見えたという。親指と小指を両袖、真ん中の3本の指を胴体に見立てたのだ。すでに手袋を無縫製で編み上げられるようになっていた。手袋でできるなら、セーターでもできるとの発想が技術革新を呼び込んだ。

 「ないものは自らつくり出す」「世界にないものをつくろう」という考え方が島精機の強み。編むのに必要な分だけの糸の長さを誤差1%以下の精度で送り出せる装置を自社で開発し、これが縫製工程をなくすための中核技術となった。

 部品の75%は内製化している。メカ(機械)の部分も75%、コンピューターのハードウエアは電子部品の実装からすべて自社内でつくっている。編み機を動かすソフトウエアも自社開発し、ニッティングやプリンティングなどのノウハウをすべて蓄積している。「まねしようと思ってもなかなかできない」(島社長)

 97年には「スライドニードル」という新たな編み針を搭載した編み機を発売した。編み方のバリエーションはそれまで36通りだったが、スライドニードルによって144通りに広がった。セーターにとどまらず、立体的なニットドレスまでカバーできるようになった。

 島社長はいつでも図面を手書きできるようにメモ用紙を用意している。スライドニードルのアイデアも「商工会議所の懇談会に出席したときに思いついた」。

増やせ日本製

 業績は順調だ。2017年3月期の連結営業利益は115億円になると予想される。前期の2倍弱の水準だ。連結売上高に占める海外の比率は約85%。同社の編み機の多くが日本ではなく、海外のメーカーに出荷されていることを意味している。島社長はこの現状に複雑な思いを抱いている。

 「今、ニット製品は国内で(全供給量の)0.6%ぐらいしか作っていない。少なくても10%ぐらい作らなかったらメード・イン・ジャパンは名前だけになってしまう」。こうした島社長の危機感を共有したのがファーストリテイリングだ。

 16年10月、島精機の子会社、イノベーションファクトリー(和歌山市)にファーストリテイリングが2億円弱出資した。イノベーションファクトリーは島精機の最新の編み機を使って縫い目のないセーターやワンピースを作り、ユニクロなどの店舗で売る。生産技術に磨きをかけ、人件費の高い先進国でも衣料品を作れるようにするための実験を重ねている。

 「協業は一つの礎になる。メード・イン・ジャパンとして商品を輸出していくことも可能になってくる」。島社長はニット生産を国内に回帰させる動きがファーストリテイリング以外にも広がることを期待している。
(和歌山支局長=加藤宏康)[日経産業新聞2017年1月31日付]

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