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公共インフラ、なぜ民営化?
民間の知恵で脱・赤字

公共インフラ、なぜ民営化?民間の知恵で脱・赤字

 最近、空港や下水道事業など公共インフラの分野で民営化が進んでいるという記事を読んだわ。もうからない分野だから国や自治体が運営していたんじゃないの。

 公共インフラの民間移管について、谷隆徳編集委員に話を聞いた。

――インフラの民営化が広がっているそうですね

 「国鉄がJRになったり、高速道路が会社経営になったり、公共インフラの民営化そのものは以前からありました。現在、注目されているのが『コンセッション』という取り組みです。インフラ自体は国や自治体が所有し、運営権を民間に売却します。空港で特に広がっています」

仙台空港は国が進める民間へのインフラ運営権売却の先行事例

 「関西国際空港と大阪国際(伊丹)空港は、オリックスや仏バンシ・エアポートなどでつくった会社が44年間、運営する権利を約2兆2000億円で取得し、2016年4月から運営を始めました。仙台空港も16年7月に民営化され、高松空港や福岡空港も18年以降、民営化を予定しています。北海道では道内の7つの空港を一括して民間に委ねる計画が進んでいます」

 「道路では愛知県道路公社が管理していた有料道路8路線が16年10月に民営化されました。前田建設工業や森トラストなどが設立した会社が約1377億円で30年間の運営権を取得しました。浜松市は国内で初めて、下水処理施設の運営権売却に乗り出そうとしており、仏ヴェオリアやオリックスなどの企業連合が交渉権を獲得しています」

――なぜ、コンセッションが広がっているのですか

 「経営の改善が最大の理由です。例えば、国が管理する約20の空港で黒字なのは羽田空港や新千歳空港などわずかでほとんどは赤字です。それを『稼ぐインフラ』に変えようとしています。空港は一般的に滑走路などは国や自治体が、空港ビルや駐車場は民間や自治体が出資した第三セクターが運営しており、横並びのサービスに陥りがちです」

 「従来は民間委託といっても、料金の決定権などは国や自治体にありました。コンセッションでは、民間が料金体系や施設の改修などを独自に決められます。空港のコンセッションでは、滑走路の運営権も民間に与え、空港ビルなどと一体的に運営できるようにしたのです。民営化した空港では搭乗率に応じて航空機の着陸料を変えることも可能です。柔軟な料金設定で航空機の便数が増えれば空港内の店舗の利用客も増えます」

 「愛知県の有料道路ではパーキングエリアを増やし、周辺にホテルや商業施設をつくる計画があります。下水道事業を手掛ける仏ヴェオリアは、下水汚泥をバイオマス発電の燃料にする事業に強みがあります」

――企業側にはどんな思惑があるのですか

 「国内ではすでにインフラがかなり整備されており、建設需要は今後、あまり増えません。そのため、ゼネコンなどはインフラの運営面でもノウハウを蓄積しようとしています。アジアなど海外へインフラを輸出する際、建設と運営の双方に関われば、それだけビジネスチャンスが広がります」

 「政府は13年度から10年間で公共インフラの民営化など官民連携の事業規模を21兆円に伸ばす計画を立てています。民間によるインフラ運営を新たな成長分野と位置付けているのです」

――民営化を進めていく上での課題は何ですか

 「安定した経営が可能な計画かどうか、しっかり見極めることが重要です。利用者が思うように伸びないという理由で撤退されたり、料金が大幅に上がったりしては困ります。また、大災害が起こった場合にリスクを取るのは官なのか民なのかなどもあらかじめ詰める必要があります」

 「現在、注目されているのが水道事業の民営化です。施設が老朽化してきたうえ、高齢化による自治体の技術者不足も深刻です。一部で浄水場の運営に民間が参入する例がありますが、まだこれからです。これからは民間に委ねる事業と、赤字であっても行政が続ける事業の区分けが重要になります」

■ちょっとウンチク
公営企業、人口減で経営厳しく
 公共性のあるインフラ運営の主体として最も多いのが自治体の「公営企業」だ。上下水道を中心に交通、病院など全国で約8600事業ある。料金収入は全体で年間8兆9000億円に上る。2015年度決算をみると、全体の1割は赤字だ。人口減少で利用客が減っていることもあって経営は総じて厳しい。公営企業は独立採算が原則だが、自治体の一般会計からもお金が入っている。例えば、下水道事業では家庭などから出る汚水分は料金、雨水分は税金で処理費用を賄うのが基本になっている。
 公営企業の民営化も進んでいる。大阪市は市営地下鉄を18年4月から民営化する。運行する新会社は市が当面、株式を100%保有する予定だ。
(編集委員 谷隆徳)

[日本経済新聞夕刊2017年5月15日付、日経電子版から転載]

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