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[ career-働き方 ]

トランプのマーク早く並べよ、
井口一世がユニーク採用

トランプのマーク早く並べよ、井口一世がユニーク採用

 新卒採用で「超売り手市場」が続き、中小企業の採用難が厳しさを増している。そんななか、社員40人に満たない板金加工の井口一世(東京・千代田)はユニークな採用で話題性を呼び、学生を集めている。

 6月上旬。主力工場の所沢事業所(埼玉県所沢市)で、来春卒業予定の学生の採用試験が開かれた。真剣な表情をした武蔵野大学4年生の女子学生が試験官と向かい合う。

 トランプのカードを渡された学生は「始め」の合図とともに、机の上にハートとダイヤ、スペード、クラブの4種類のマークごとにカードを次々そろえていく。終わると試験官がストップウオッチに表示された所要時間を見せた。これを3回繰り返す。ほぼ全員、タイムは徐々に早くなる。

 女子学生は「こんな試験は初めて。少し戸惑った」と話した。試験を終えた工学院大学4年生の男子学生は「試験の意味は分からなかったけど、回を重ねるごとに速くなった」と感想を述べた。

トランプのマークをそろえる速さを試験する(埼玉県所沢市)

 トランプで遊んでいるわけではない。52枚のマークをそろえる速さは合否を決める要素だ。平均は40秒ほど。過去最速は22秒だった。30秒以内なら合格圏だが、達成できるのは10人に1人だ。試験官は学生の趣味やアルバイトの体験談などを聞きながら、緊張せずに楽しんでもらおうと工夫していた。

 井口一世社長は「トランプの早並べが好成績だと、入社後はどの部門でも的確に仕事をこなせる」と強調する。売上高85億円(17年3月期)の同社は、生産や開発、営業など、どんな仕事もこなせる器用な人材を必要としている。

 女性社員もレーザー加工機など大型機械を操作する。少数精鋭で成長を目指しているからだ。手先が器用で、きちょうめんな性格でなければ、カードを速くさばけない。

 1次試験では図形やパズルを解く知能指数(IQ)テストも実施する。IQの高さは課題の解決力と直結するためだ。例えば機械の操作を誤った時、その原因を突き止め、次につなげる能力があるか判断できる。

 井口社長は「柔軟な発想力はどんな部署でも役立つ」と話す。大手で一般的な時事問題試験や適性検査(SPI)は一切せず、IQテストの比重を今後さらに高める。

 2次のグループ討論を経て、3次ではある状況(シチュエーション)を設定し、学生に面接官を説得してもらう。例えば学生が会社社長、面接官が同社部長の役を演じる。配置転換を嫌がる部長を社長としてどう納得するか審査する。

 「多くの部署を経験した方が出世できるよ」「君の適性からみれば経理が向いている」――。学生の問いかけに部長役の面接官は全てノーで返す。理論が一貫しているか、プレッシャーに耐えられるかなどを見る。

 3次では心の知能指数(EQ)も測る。例えば「飛行機に乗っているとき乱気流に巻き込まれたらどうするか」について4つの選択肢から選ぶ。心の安定度や協調性をみるもので、試験のウエートはそれほど大きくないが合否の判定に使う。

 昨年は約400人が応募し、5人に内定を出した。板金加工工場は「きつい」「危険」といったイメージがあるが、明るく清潔な職場にして女性でも働きやすい環境づくりに努めている。

 同社は2001年の設立だが、独自の経営哲学や社員育成論は業界紙などメディアでしばしば取り上げられ、優れたベンチャー企業を表彰する賞も受けるなど、井口社長にはもともと発信力がある。

 ユニークな新卒採用も10~14年にかけて導入を進めた。井口社長は「外れのない学生を確保するためだ」と話す。

 志望動機や入社後にやりたい仕事を聞く、一般的な面接を重視しても本質は見抜けない。学生にとっても、入社後にミスマッチの可能性がある。「トランプなどの試験結果と入社後の実力は相関関係がある」と言い切っている。
(企業報道部 角田康祐)[日経産業新聞2017年6月20日付、日経電子版から転載]

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