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[ career-働き方 ]

学生時代の過ごし方2017(8)キヤノンの大石紗恵子さん
社交ダンスで「自分らしさ」を追求

学生時代の過ごし方2017(8) キヤノンの大石紗恵子さん社交ダンスで「自分らしさ」を追求

 理工系学生は研究が忙しく、部活・サークル活動やアルバイトはできなかったという人が多いでしょう。ところが、キヤノンの大石紗恵子さん(28)はバイト、研究、部活で1日が終わる大学生活を過ごしていました。そんな忙しい学生生活とそこから得たものについて話を聞きました。

大石紗恵子(おおいし・さえこ) 2014年千葉大学大学院融合科学研究科(現 融合理工学府)修士課程修了、キヤノン入社。デジタルシステム開発本部 画像情報技術開発センター所属。中学はバドミントン、高校は陸上に打ち込み、大学では社交ダンス部に所属。就職後も趣味として社交ダンスを楽しむ。

――現在、どんな仕事をしていますか?

 「2014年に入社してから画像情報技術開発センターという部署に所属しています。私が携わっている仕事は画像の画質を定量化する要素技術開発です。カメラが撮影した画像やプリンターが印刷した画像の画質が良いのか悪いのかを数値化しています。画質が数値化されていなければ、熟練者が画質の良さを判断することになりますが、人によって判断基準が変わってしまいます。全社的に画質の良さの基準を統一して製品開発を進めるという意味でも、画質を数値化することが必要です」

大学での研究を生かせる仕事

――大学での専攻・研究と今の仕事内容は結びついていますか?

 「はい。大学4年から院生まで目の基礎研究をしていました。目が色やコントラストをどう感じるのかといった研究です。画質の数値化にあたって人間の目の感度を考慮しているので、人間の視覚メカニズムの基礎を学んだことは役に立っています」

――就職活動の時にも、その研究を生かせる企業を探したのですね。

 「何もないところから新たな価値を創り出すメーカーの仕事に魅力を感じており、目の研究をしていたこともあって映像・画像機器を扱うメーカーで専攻を生かしたいと考えていました。その中でもキヤノンは映像処理で世界的にもトップレベルにあり、質感の再現などリアリティーを追求する姿勢にひかれました。また、大学時代に社交ダンスをしていたのですが、踊るときに着るドレスの質感が写真ではうまく表現できてないと感じていました。質感の再現に力を入れているキヤノンなら、それが実現できるのではないかという思いもあって志望しました」

バイト、研究、ダンスの日々

――社交ダンスの話がありましたが、どんな学生生活を過ごしていましたか?

社交ダンスをする学生時代の大石さん

 「競技ダンスにどっぷり浸かっていた大学生活で、学部、院と社交ダンスをやっていました。部活なのでとにかく厳しかった。部としての全体練習は週3日、授業が終わってから21時頃まで4時間ぐらい、それ以外の日はパートナーと一緒に自主練を1日2、3時間。ほぼ毎日踊っていました。部活は学部で卒業するのですが、大学院でもアマチュアとしてダンスを続け、大会にも出ていました」

――理系は研究もあるので、そんなにダンスをやっていたら他には何もできないのでは?

 「研究とダンスだけでいっぱいいっぱいなのですが、ダンスはけっこうお金がかかるんです。練習するには練習場代が1回安くて500円、高くて1000円ぐらい、ダンススクールでの個人レッスン代が1回5000~8000円、そして衣装代です。衣装は中古でも10万円程度かかり、新品でオーダーすると30万円近くになってしまいます。そのため朝6時から9時までコンビニでアルバイトをしていました。バイトに行ってから授業に出て、ダンスをして家に帰って寝るという日々。大学院でもダンスは続けたので、学部よりも研究が忙しくなる中、アルバイトも続けました」

――社交ダンスの経験は今の仕事で役立っていますか?

 「千葉大のダンス部は伝統的に年1回、他大学のダンス部と1週間の合同合宿を開催します。3年生が合宿を運営をするのですが、私たちの代は6人と少なかったので、他大学の方々に協力を求めながら運営しました。事前に役割を決めたり、人数を調整したりして延べ200人の合宿を成功させました。この経験は社会人として仕事を進める上で必要な基礎的なことを経験できたと思います」

 「他にはコミュニケーション能力が身につきました。ダンスは先輩や先生に練習を見てもらってアドバイスを頂いて修正をします。そのため、人に教えてもらうときには相手の目を見て聞く、姿勢を正すなど、常識的なことではありますが、社会人、特に新人にとっては大切な姿勢を学んだと思っています」

「何のために取り組むのか」を考える

――大石さんは大学での専攻と今の仕事が結びついていますが、研究そのものの経験が仕事で役立っていることはありますか?

 「論文を書くことによって得られた論理的な思考力は役立っています。また、物事に取り組む際には、必ず理由を考えて取り組むことの大切さにも気付きました。私が入社して部署に配属された時、大学での研究を発表するという場がありました。その時に"何のためにやったのか"ということを先輩から質問されました。仕事をする上では常に"何のために仕事をするのか"を考えることが大切です。修論のテーマは研究室の状況や教授の指示で決まることがありますが、そのような場合でも、何のために取り組むのか、どういう背景があって取り組むのかを考えることは、就職後に仕事をする上で必要になります」

――最後に、学生の皆さんにアドバイスをお願いします。

 「何でもいいので、自分だからできること、自分らしさは何かを考えて物事に取り組んでほしいと思います。私は中高の頃は"他人と一緒がいい、無難な方がいい"と思って過ごしてきましたが、ダンスを始めてから考え方が変わりました。競技ダンスはジャッジに見てもらわないと勝てない競技です。そのため、常に自分らしさとは何か、他人と自分はどう違うのかを表現するか考えていました。就職活動でも自分らしさを面接官に伝えていく必要があります。学生の皆さんも他人と一緒だと面白くないと思って、自分らしさを考えながらいろいろなことに挑戦してほしいと思います」

 「あともう1点、技術系の場合には大学での基礎学力の習得は必要だと思っています。学部の1、2年で学ぶような情報系の基礎知識や数学、統計などが必要になる場面が業務中に結構あって、すぐに出て来なくて苦労したことがありました。特に大学院生は専門分野については詳しくなりますが、学部で習った基礎的な内容を忘れがちです。そこはしっかりと思い出して、身に付けておいた方がいいと思います」
(聞き手は渡辺茂晃)