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地方の豪族企業(6)渋谷工業(金沢市)
無菌の技、挑め再生医療

地方の豪族企業(6) 渋谷工業(金沢市)無菌の技、挑め再生医療

 金沢市に本社を置く渋谷工業は、ペットボトルなどに飲料や薬を充塡するボトリングシステムで国内シェア約6割を持つ。後発だった同社がトップを走る秘訣は、システムの内部を無菌状態に保つ技術だ。そして、この技術を応用して乗り出しているのが再生医療の分野だ。

 渋谷工業のRM(リジェネレイティブ・メディシン=再生医療)システム森本工場(金沢市)に入ると、巨大な箱のようなものが目に入る。「セルプロアイ」と呼ばれる装置で、体の様々な組織や臓器の細胞に分化するiPS細胞や幹細胞などを培養するのに使う。

着替えずに入室

 側面は透明になっており、外から培養液やシャーレなどをセットできるように、オペレーターが手を入れられるようにしている。内部には双腕型ロボットがあり、シャーレに入ったiPS細胞などに培養液を供給する。

セルプロアイは外から手を入れられるようにしている

 細胞を安全に培養するには無菌空間を設ける必要がある。半導体工場や病院にあるようなクリーンルームを建設すれば数億円の費用がかかる。渋谷工業は殺菌作用のある過酸化水素の蒸気を用いてセルプロアイの中に無菌空間を作る。設置面積はクリーンルームの半分程度で済む。外から作業できるので、入退室時の面倒な着替えも不要だ。

 SBI証券の岩田俊幸バイオテクノロジー担当シニアアナリストは「(クリーンルームより大幅に)コストが安くなる。ロボットで自動化できれば人手もかからない。これから伸びる事業」と期待する。

 セルプロアイの「キモ」の1つとなっている殺菌技術。これを培ってきたのが渋谷工業の主力製品であるボトリングシステムだ。

 消費者の安全を守るには飲料を注入する際にボトルや瓶の内部だけでなく、ボトリングシステムの内部も無菌状態を維持する必要がある。

 以前はボトリングシステムの内部を熱で殺菌していたため、ボトルは熱に耐えられるように厚みを持たせなければならなかった。ボトルの製造コストがかさんだり、加熱で飲料の風味が落ちたりしていた。

飲料や薬のボトリングシステムで国内シェア約6割を誇る

 渋谷工業は加熱する代わりに過酸化水素で殺菌し、無菌状態を長時間保つ技術を確立した。中俊明専務(69)は「他社製品より2~3倍長く無菌状態を維持できる」と語る。過酸化水素をどのように噴射するか、無菌と非無菌空間をどういう構造・方法で仕切るか――。渋谷工業は試行錯誤を重ねてノウハウを蓄積してきた。渋谷弘利社長(85)は「無菌技術に詳しい機械メーカーはほかにない」と自負する。

 1931年創業(設立は49年)の渋谷工業は、もともと造り酒屋で使われる大型の燃焼装置を製造していた。造り酒屋で瓶に日本酒を注ぐ作業が自動化されるようになり、55年にボトリングシステム事業に参入した。

 当時は三菱重工業や川崎重工業がこの分野で先行していた。渋谷工業は大きさの異なる瓶に対応したり、瓶詰めのラインを2列にしたりする機械を開発して酒造・飲料メーカーの信頼を得た。過酸化水素や電子線を使った殺菌技術で他社を突き放し、現在は国内市場の6割程度を占める。

 ボトリングシステムを扱うパッケージングプラント事業の売上高は485億円(2016年6月期)で、渋谷工業の連結売上高の6割弱を稼ぐ。

 健康志向の高まりによるサプリメント飲料などの需要増で、ボトリングシステムの市場は緩やかな伸びが見込まれる。今後はペプシコやコカ・コーラといった世界的な飲料メーカーが集積する米国や、ビールやワイン会社が多い欧州を狙う。

 渋谷工業が海外市場開拓とともに、新たな収益源として期待しているのが09年に参入した再生医療システム事業だ。

 セルプロアイの開発は14年。それに先立つ11年には九州大学発ベンチャー企業のサイフューズ(東京・文京)と組み、細胞塊から血管や軟骨をつくるためのバイオ3D(3次元)プリンターを開発した。山口大学とは肝硬変治療のための細胞培養で共同研究を進める。

 さらに6億~7億円を投じて「細胞培養加工センター」をRMシステム森本工場に併設する。自社機械を活用し、再生医療の現場で患部に貼り付ける「細胞パッド」などを生産・加工する。17年秋の稼働を見込んでおり、再生医療を担う大学や研究機関に供給する。

売上高300億円へ

 調査会社のシード・プランニング(東京・文京)によると、再生医療の世界市場は30年で12兆8000億円に拡大する見通し。現在、渋谷工業の再生医療システムの売上高は10億円以下にとどまるが、「3~5年で最大300億円に伸びる予感がする」(渋谷社長)。

 渋谷工業では、研究開発(R&D)のテーマをすべて渋谷社長が決裁している。「技術や価格で日本一、世界一になり、顧客が喜んで買ってくれる製品をつくるため」と渋谷社長は言う。社内ではこうした製品を「ダントツ製品」と呼ぶ。ある社員は「現場が失敗しても自分が責任を取る体制を整えたのだろう」と話している。

 渋谷工業の連結売上高は7期連続で過去最高を更新した。ただ「従来事業だけでは売上高1000億円が限界だ」(渋谷社長)。売上高を1500億~2000億円に伸ばすには、再生医療の分野を中心に「ダントツ製品」をどれだけ生み出せるかにかかっている。
(高城裕太)[日経産業新聞2017年2月27日付]

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