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[ liberal arts-大学生の常識 ]

普段着でポルシェ
高級外車で活況の青山通りを歩く

普段着でポルシェ高級外車で活況の青山通りを歩く

 フェラーリ、ランボルギーニ、ベントレー、ポルシェ――。高級輸入車の販売が伸びている。景気が決していいとはいえず個人消費も停滞する中、1000万~5000万円前後もする車を買っているのは一体どんな人なのか。社会人2年目の記者(23)には正直縁遠い世界。6月上旬の週末、ディーラーの旗艦店が集結する東京・青山通りを歩いて活況のワケを探った。

顧客の7割が東京・港区在住

 「マンションの駐車場にある車がほとんど『カイエン』なんですよ。ベンツに乗っているけど焦ってきたんです」。ポルシェセンター青山(東京・港)を訪れた眼科医の男性(54)は、記者にこう打ち明けた。多目的スポーツ車(SUV)のカイエンに見入っていた。中心価格帯1200万~1300万円もする。しかし男性が住む南麻布のマンションの住人は次々と、カイエンやその兄弟車の小型SUV「マカン」に乗り換えているのだという。

近所の散歩がてら、ラフな服装で訪れる人が多い(東京都港区のポルシェセンター青山)

 同店では顧客のうち、2割を医者が占めるという。冨沢寛史総支配人は「外科医と歯科医が最も多い。神経をすり減らす仕事柄のせいか、休日に思い切りスポーツカーを乗り回したいというお客様が多いです」と話す。

 新聞記者もストレスが多い仕事だが、ポルシェに乗っている先輩はいない。マカンの運転席で乗り心地を試していた男性(60)にも話しかけてみた。「年を取ったら大きなクルマは運転できなくなる。残りの人生を謳歌したいからね」と話してくれた。職業はやはり、六本木ヒルズ近くに住む内科医だそうだ。

 服装に目をやると、ポロシャツに短パン、足にランニングシューズ。しゃれた雰囲気の店にそぐわない、かなりラフな格好だ。不思議に思って冨沢総支配人に聞いてみた。「近所に住んでいるから散歩代わりに来店する人も多いんです」。顧客の7割が東京・港区在住で、ほとんどがラフな服装で訪れるという。店では「見た目で絶対に人を判断しない」というルールを徹底しているそうだ。

 同店は2015年春にオープンした。青山通りの中で一番の新参者だ。「競争は激しいが集客力のあるエリア。この立地に競合他社が店を出さない保証は無いので先手を打つために出さざるをえなかった」(冨沢総支配人)。全国ブランドである"青山"の発信力に期待するのではなく、肥沃な足元の商圏を開拓するための地に足の付いた戦略というわけだ。

 東京メトロの表参道駅から赤坂見附駅までの青山通り沿いには、8つの高級車ディーラーが集まる。道行く車両はタクシーとバスを除き、ほとんどが輸入車かトヨタの「レクサス」だ。「いつかあんな車に乗れる日が来るのだろうか」。記者はあこがれの目を向けつつ、超高級車の専門ディーラー、コーンズ青山ショールーム(同・港)へと向かった。

 入り口の扉を開けると、狭い部屋にクルマが1台だけ置かれていた。そこから左に進むと英ベントレーの販売店、右に行くと伊ランボルギーニのショールームだ。どちらも同じくらい気後れする。とりあえず、ベントレー側で来店客を待つことにした。

英ベントレーや伊ランボルギーニなど、超高級車を扱うコーンズ青山ショールーム(東京都港区)

 しばらくすると、ピンク色のワイシャツを着た金髪の男性が入ってきた。医師とは明らかにちがう空気感。都内で飲食店を経営する実業家だそうだ。同店の吉野明セールスマネジャーによると「バーなどを開いてヒットして7~8店に増やした若手の経営者が多い」。ベントレーの中心価格は2500万円前後だが、6割の顧客が現金一括払いで買うという。

 株売買で成功した投資家も多い。購入客のほとんどが自身の会社の経費に算入し、資産にして償却する。2年ほどでその車を売却し、別の車種に乗り換えるのだという。ただし「株主の目もあるせいか上場企業の社長はめったに訪れない」(吉野マネジャー)。

 そういえば取材を始める前、トヨタ自動車と電気自動車(EV)の米テスラが提携を解消したニュースを耳にした。量産モデル「モデル3」の発売を控え、時価総額がフォードやゼネラル・モーターズ(GM)を抜いたテスラ。新聞記事ではよく目にするが、やはり乗っている職場の先輩や同僚はいない。テスラの青山ストアへ向かった。

交通量と家族構成がポイント

 イチョウ並木と道路を挟んで向かいにある店の1階には「モデルX」が1台のみ置かれている。商談スペースは2階。他のディーラー店舗とはひと味違った近未来的なデザインに見入っていると、男性スタッフから「一度、加速を体感してみませんか」と誘われた。

 助手席に乗り込むと、運転してくれる担当者から「ルーディクラスモードでいきますね」と笑顔で告げられた。リミッターを解除して、加速性能を上げるらしい。どうなるかよくわからないので、曖昧な笑顔を返した。後方から来る自転車やタクシーに注意しつつ、前方が広く空くのを待つ。

 ワクワクしていると、「首を痛めてしまうので頭をヘッドレストにしっかりつけて下さいね」と担当者。「何を大げさな......」と思った次の瞬間、内臓が浮き上がる感覚に襲われた。担当者がアクセルを目いっぱい踏み込み一瞬で加速したのだ。体験したことのない「G」に襲われ、ジェットコースターのような恐怖感があった。でも非日常の感覚がクセになりそう。自動運転など次世代車に興味のある人が買うそうだ。

 03年に同エリアに店を出したコーンズ・モータース(同・港)の大津文男副社長は「交通量と家族構成がポイントだった」と話す。東京都の交通量を調査し、最も多かった国道246号線沿いに絞った。その上で港区は単身か2人世帯が多く、クルマに使う額も多いと考えた。青山通りは道幅が広く、店の前でクルマを一旦止めやすい点も重視した。港区に住む富裕層が増えるにつれ、レクサスやテスラなどが次々と出店。青山通りは「高級車の聖地」になったのだと教えてくれた。

 「各社が不況に強いブランドを育てたいという思いもある」。大津副社長は青山通りに集まる理由をこう付け加える。1000万円以上の価格帯は短期的な不況の影響を受けにくいといい、「リーマン・ショックの時でさえ大きな打撃はなかった」(大津副社長)。青山エリアに店を構えることは、不況に左右されない強固なブランド力の形成に役立つのだという。

 日本自動車輸入組合(同・港)によると、16年の輸入車の新規登録台数は29万台超と20年ぶりの高水準を記録した。17年1~5月も前年同期比3.8%増と快走は続いている。

 青山通りで一日中高級車を見ていると、クルマを持っていない記者もさすがに欲しくなった。驚いたのはどのディーラーでも記者と同じ20代前半の購入客がいること。多くはベンチャー企業や飲食店で成功した経営者だ。華やかな店や青山通りを巡っていると高揚感に包まれたからか、高級車を乗り回して華やかな生活を送ってみたい、と思った。しかし「一部の成功者の影には多くの失敗者がいるんだろうな」。やはり冷静になってしまう。
(企業報道部 河野真央)[日経電子版2017年6月9日付]

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