ドラえもんとのび太の<間>をデザインする
夢は青くて巨大な鉄の塊(3)
研究者としてドラえもんを作りたいという思いでさまざまな知見を学んだ結果、ドラえもんはのび太やその周りの人、そして彼らをとりまく環境があって初めてドラえもんになれるということを学びました。そのために私はインタラクション(交流)というキーワードを手に入れたのでした。
今の人工知能は人と関わるのが苦手
今世間を賑わせている人工知能、その台風の目となっているのが"ディープラーニング"という技術です。ディープラーニングは大量のデータを与えると、その規則や特徴を見つけ出し、場合によっては部分的に人以上の能力を獲得することができます。例えば、写真に写っている物体を認識することやテレビゲームをクリアすること、本物そっくりな絵を描くこと、最近では囲碁で人間の世界チャンピオンに勝利することもできて話題になりました。
ただ、もちろんディープラーニングに苦手なこともあります。その典型例が人が関わることです。ディープラーニングは膨大な時間をかけた学習が必要になります。例えば、24時間休まず、1週間、時には1カ月学習し続けるなんてこともあります。人が現在のコンピュータの高速で不眠不休な学習に付き合うことは現実的ではありません。
私が目指すゴールはドラえもんで、のび太と関わることが苦手なドラえもんはきっと多くの人にとって魅力的には映らないと思います。だからこそ、人と関われるシステムを目指す必要があります。
インタラクションという研究対象の"ありか"
一方で、ディープラーニングとは別の文脈で人とシステムが関わりあうこと、つまり人とシステムとの間のインタラクションの研究は数多く取り組まれてきました。さて、私たちが思うインタラクションとはいったい"どこ"の研究なのでしょうか。ロボットや人工知能の研究でしょうか。それとも私たち人間自身の研究なのでしょうか。それはインタラクションを追求する学問の間でも少しずつ違っています。
人は意外にも多くのモノの間でインタラクションを成立させることができます。例えば人同士はもちろん、人と動物の間で成立します。現在でも人とロボットとのインタラクションや人とコンピュータ上のCGキャラクターとのインタラクションが成立する場合も報告されています。また人が介入しない場合もインタラクションはあります。例えば動物同士でも成立していますし、ゆくゆくはロボット同士のインタラクションもあり得ると思います。
インタラクションをとる主体が変わっても、普遍的にあるインタラクションを捉えようとしたら、"賢い人工知能を作る"、"可愛いロボットを作る"といった個体の研究だけでは何か足りない気がしてくるのです。
人とロボットの<間>をデザインする?
インタラクションの研究対象の"ありか"が人でもなく、インタラクションする相手でもないとしたら、もうひとつありうるのは<間>です。そんな考え方の元、展開されている学問がHuman-Agent Interaction、通称HAIです。
HAIにおけるAgentとは、3つの意味があります。1つ目がロボット。これはきっと多くの人にとって直感的にわかりやすいのではないでしょうか。2つめは擬人化エージェントです。これは主にコンピュータ上のCGキャラクターを指します。そして3つ目がエージェントメディエイテッドな人間とされています。エージェントメディエイテッドとは、簡単に言えば機械やシステムを通してインタラクションするということです。電話やテレビ電話が身近な例だと思います。
つまりHAIは3種類のインタラクションを扱うことになります。もっと言えば、まずはこれら3つのインタラクションの共通する部分を追求することで、人とエージェントの<間>の真理に迫ろうとしているのです。
人と関われることの強力さはすごい!
システムが上手に人と関わることができるとき、そのシステムのインパクトは計り知れません。これまでにも人と上手に関わることのできるロボットがいました。例えば、AIBOやパロといったロボットは人の心に上手に寄り添った典型例です。
HAIという研究領域から生まれた研究成果にも、心動かされた研究がいくつもあります。それらについては今後の連載の中でご紹介していきたいと思います。
最先端のAI技術でHAI!
HAIは最近注目を集めているディープラーニングの研究ではありません。どちらかと言えば、HAIがHumanとAgentの間の研究なのに対して、ディープラーニングはAgentという個体の中身を賢くする研究といえます。しかし、私は現代の様々な優れた技術をつなぎ合わせてドラえもんという目標に迫っていきたいし、ディープラーニングとHAIはその代表的な繋がるべき領域と思っています。ディープラーニングで賢くなったAgentと人の間をデザインしたいと思っています。
HAIとディープラーニングが繋がって発展していくためには、私は人と寄り添って人とともに学び成長するディープラーニングが必要だと思っています。人とともに成長できるディープラーニングができれば、今まで以上に人が関わりやすいロボットやキャラクターが誕生するはずで、ドラえもんにむけた大きな一歩になるはずです。
参考文献:山田誠治監修・著、「人とロボットの<間>をデザインする」(東京電機大学出版局、2007)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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