きょうだい間の教育費差別 「長男教」はまだ存在するか?
人生を経済学で考えよう(16)
「差別」と聞くと、人種差別・男女差別等、様々な「差別」を連想する人がいるでしょう。しかし、教育における「差別」が存在することをどれだけの人が思い起こすでしょうか。例えば、家族の中でも、多くの教育費をかけてもらった子どもとそうでないという子どもが存在します。例えば、兄弟姉妹数が多い開発途上国では、特に学力の高い子どもだけに集中的にお金をかけるという行動が顕著にみられています。
米国の研究で有名になった「第二子の呪い」
先進国では兄弟姉妹の間で教育費に極端な差をつけるということはないだろうと思われるかもしれませんが、過去の研究では、先進国においても、子どもの性別や生まれ順で差がつくことを示した研究があります。男系による家系の継承する伝統があった日本では、「長男教」などと揶揄されることもありますが、兄弟姉妹の中で特に長男に対して、多くの資源が振り向けられるという話はよく聞きます。
また、性別に寄らず、第一子のほうが多くの教育費を振り向けられているという可能性もあります。米国で行われた研究は、「第二子の呪い」と呼ばれ、有名になりました。親は第二子よりも第一子により多くの資源を振り向けており、その結果、学力やIQが高く、問題行動が少ないことが示されています。
日本でも同じように、性別や生まれ順で、親の教育投資額が変わるということはあるのでしょうか。私たちは、日本のデータを用いて、親が恣意的に行う教育投資額の差を、教育における「差別」をと定義し、この「差別」の根源を探ろうと考えました。実証分析の結果、日本でも性別は影響を与えていることがわかります。ただし、男子と女子、どちらが多いかは、年齢によるという結果になっています。
幼少期は女子の方が教育投資額は高いものの、年齢が上がると教育投資額の差は縮まり、中学生の段階で、男子の方が、教育投資額が高くなることがわかりました。これは女子の方がピアノやバレエなど、高額な習い事を幼少期にしている傾向があるけれど、年齢が上がると芸術系の習い事よりも塾などの学習系の習い事にお金をかけるようになり、その場合男子の方が積極的にお金をかけられるようになるからだと考えられます。また、学力も教育投資額に影響を与えています。開発途上国と同様、学力の高い子どもは多くの教育投資を受けています。
日本では生まれ順やきょうだいの数は影響与えず
一方、アメリカとは異なり、生まれ順やきょうだいの数は、教育投資額に影響を与えていないことが明らかになりました。これには、親の考え方の変化が考えられます。すでに述べたように、日本では、第一子の男子に家を継がせるという考え方が一般的でしたが、高度経済成長を境にこうした考え方に変化が出てきているという研究があるのです。つまり、少子化で兄弟姉妹数が少なくなってきたことや実力主義の台頭で、出生順位や性別よりも、学力によって教育投資額を親が決定するようになった可能性があります。
私たちが今回の研究から伝えたかったのは、無意識のうちに、兄弟姉妹間の教育投資額に差が生じている可能性があり、それがのちの成果につながっている可能性があるということです。本人の能力によらず、子どもの性別や出生順などで格差が生じるのは到底フェアだとは言えませんから、こうした可能性を知っておくことは、これから皆さんが家族や子どもを持った時に有益なのではないでしょうか。
(中室牧子・森田彩恵)
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