難関大で大学名差別に負ける学生
ホンネの就活ツッコミ論(66)
今回のテーマは「大学名差別の精神構造・難関大編」です。
大学名差別は当連載では第5回でご紹介しました。さらに前回の65回は「大学名差別の精神構造」と題して、負ける学生・負けない学生の差についてまとめました。
今回は、大学名差別で本来なら恩恵を受ける側、つまり、難関大生の精神構造についてご紹介します。あまり注目されていませんが、この大学名差別で損をしてしまう難関大生は結構います。さて、難関大生の皆さん、知らず知らずのうちに損をしていませんか? 今回は「自慢・見下す」「敵視」「自虐」「評論家」「知ったかぶり」「知らなすぎ」の6点についてご紹介します。
1:大学名や偏差値などを自慢する、見下す
難関大生の失敗パターンで多いのが、この自慢です。確かに、頑張ってきた成果を自慢したい、という思いはわかります。私もたまにテレビに出ると自慢しますし、ここ2か月ほどは日大騒動でずっとテレビに出ています。特にフジテレビ系・バイキングにはレギュラーか、と言う程、出演しています。
かくのごとく、人は自分がやってきたことを他者に認めてもらいたい、承認欲求があります。ただし、それも度が過ぎると聞いている側からすればうんざりします。
大学名や偏差値についても同じです。難関大学に入学した、それだけ受験勉強で頑張った、という点は素晴らしいことです。が、就活では受験勉強で頑張った、という学生はいくらでもいます。早慶上智だけで約1万人もいるわけで、これに東大、一橋、ICUや旧帝大クラス、関関同立、MARCHクラスなども含めると数万人以上います。
「受験勉強を頑張った」「センター試験は×点だった」といくら自慢しても、採用する側は「それはすごいけど過去の栄光でしょ?」「似た学生が数万人もいるのに、アピールする点はそれだけ?」となってしまいます。さらに自慢するだけでなく、見下すとなると、人としてどうなんだろう、という話にもなりかねません。
2:1ランク上の大学・学生を敵視
大学受験に失敗した難関大生に散見されるパターンです。具体的な大学名を挙げていくと、一橋・早慶(当初は東大志望)など。「センター試験は×点でもうちょっとで東大に入るところだった」などと言い出します。それでいて、この1ランク上の大学、たとえば東大生についてはやたらと当たりが強くなる、というのがこのパターンの特徴です。
たとえば性格が合わない、意見が違う、などで衝突することは学生であれ、社会人であれ、よくある話です。が、単に大学名だけで個人への対応を変える、見下す、というだけでなく、その逆に当たりが強くなることであっても、やはり人格が疑われてしまいます。
3:やたらと自虐に走る
大学名を出すと、MARCHクラス、関関同立クラス、特に法政、関西、立命館に多いのが自虐パターン。少ないのは青山学院、立教、関西学院、同志社の4校あたり。
「私の大学、偏差値がぱっとしないのですけど就活、大丈夫でしょうか」など、異様に気にします。私の講演などでもこういう質問をしてきます。「それは中堅校の一角、東洋大出身のこの石渡より偏差値は上、という自慢の裏返しという理解でよろしいでしょうか?」と牽制して、当の学生は「いや、そんなつもりではなくて、あの、その」と慌てます。
講演だけではありません。私が以前、取材した立命館大学での就活イベント(採用担当者が多数参加)で「大学名がパッとしない中、就活がうまく行くかどうか、大企業に入れるかどうか不安でした」という学生がいました。
うしろで聞いていた採用担当者がボソッと言うには、
「うちは大企業じゃなかった」
「パッとしない大学にわざわざ呼ばれた僕らの立場は一体」
付言しますと、このイベントに参加した企業は優良企業ばかりであり、中には高倍率の大企業も来ていました。その企業名は学生に事前に告知しているはずなのですが「パッとしない」。劣等感を覚えるのはしょうがないにしても、それを引っ張り自虐に走っても、だから何なんだ、となってしまいます。
4:評論家
評論家タイプについては、前回もご紹介した良作、『学歴フィルター』(福島直樹、小学館新書)からグループディスカッションのシーンを引用します。
間髪入れずに男子学生が反論する。
男子学生「それはダメ。理由は2点。1点目、最貧国には新卒採用をする企業が存在しない。2点目、最貧国には大学生もいない。つまりマッチングしない。以上」
切り捨てるような発言にしばらく静まりかえった。
女子学生「......あの、私の意見を修正してくれて、ありがとうございます」
同書では、こうした評論家タイプについて「頭が良ければなんでも通るわけではない」としています。
私もまったく同感。アイデアを否定するにしても、肯定しつつ修正していく方が話は膨らみます。それを全否定していますと、次が続きません。持論にこだわりすぎるのも良くないですし、難関大の評論家タイプは、どうも否定から入りたがる学生が多くいます。当然ながら、「頭がいいのに、なんで、ああも人が悪いのだろう」と評価は相当落ちてしまいます。
5:知ったかぶり(意識高い系)
難しい言い回し、知識などを振りかざす学生を「意識高い系」と言います。この日経カレッジカフェでも連載されている常見陽平さん(千葉商科大学講師)が定着させ、同名の著書もお持ちです。人によって「意識高い系」の定義は微妙に異なるのですが、就活という場面で知ったかぶる、くらいにここではしておきます。
勉強をした、本を読んだ、社会人から話を聞いた、などで難しい言い回しを覚えたり、知識を仕入れることは悪いことではありません。それを身につけるのも学生が成長していくうえで必要です。ですが、「難しい知識(言い回し)を知っている自分、すごいだろう」との意識が先に来ると、単なる嫌味です。嫌味ばかり先に来ると、あまり感じがいいものではありません。当然ながら採用でも評価ポイントは相当落ちます。
6:知らなすぎ(意識低い系・知識がない)
知ったかぶり、意識高い系の逆。あまりにも知識がないと、これはこれで問題です。大学名は関係ないのですが、難関大生だと、「頭が良く、知識もあるだろう」という先入観が採用側にはあります。それを裏切るかのような知識のなさを露呈すると、期待値が高かった分、失望につながります。
輸出メインのメーカー志望なのに、円ドル為替レートがいくらか把握していない、総合商社なのにTPPとトランプ政権の産業保護策を理解していない、となると、採用側は相当失望するに違いありません。
難関大の学生であっても「いや学生だし、細かいことまでわかりません」という方もいるでしょう。実際、私にそう苦情を申し立てた学生もいました。あれもこれも全部把握しているわけではない、という気持ちはわかります。が、大学名差別とは要するに難関大生への期待値が高い、というものです。期待値の高さを都合のいいところだけ利用して、都合の悪い部分では「学生だし」というのは無理があるのではないでしょうか。
期待値が高い分、就活で好結果を望むであれば、志望企業・業界に関連する知識はもちろんのこと、関連がなくても広く知識を持つ必要があります。つまり、ムダな情報・知識をもっていて、それが何かあればムダにしない、それが期待値の高さの裏返しでもあります。
難関大生の皆さんには期待値の高さに応えるためにも、ムダな情報・知識を身につける、そのためにも新聞は頑張って読んで欲しいと思います。
1975年札幌市生まれ。東洋大学社会学部卒。2003年から大学ジャーナリストとして活動開始。当初は大学・教育関連の書籍・記事だけだったが、出入りしていた週刊誌編集部から「就活もやれ」と言われて、それが10年以上続くのだから人生わからない。著書に『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)、『女子学生はなぜ就活で騙されるのか』(朝日新書)など多数。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。