世界の行方 自ら見極めて
グローバル時代に学ぶ(中)
池上彰の大岡山通信 若者たちへ
今回も一般の高校生や大学生などを対象に、立教大学で行った講演の一部を取り上げます。グローバル時代の学び方や生き方について、アメリカと中国による「貿易戦争」や大国の対立を話題にしました。さあ、一緒に考えてみませんか。
10月初め、アメリカのペンス副大統領による講演が内外の大きな関心を集めました。覇権を強める中国に対し、米中関係の現状やこれまでの対中政策の失敗、アメリカへの内政干渉などを批判したのです。関税問題に続き対立の構図が浮き彫りになりました。
■「歴代大統領の支援は失敗だった」
発言を要約してみると、東西冷戦後、多くの国々が民主化を進めた。中国も経済が豊かになれば変わるだろうという期待があった。歴代大統領は大きな支援をしてきたが、それは失敗だったというものでした。もう支援はしないという対決姿勢をむき出しにしました。
これは経済的に急成長を遂げ、軍事力を増強し続けている中国に対する危機感の表れです。それも副大統領という要職にある人物の発言だけに、メディアはこぞって「米中による新しい冷戦の始まり」と位置付けたのです。
国際情勢を読むとき、発言の背景や意図を考えることが大切です。10月中旬には米中関係を巡って「国際郵便」が話題になりました。トランプ米政権は、国連専門機関の万国郵便連合(UPU)からの離脱手続きを始めると発表したのです。
これはなぜでしょう。トランプ大統領は就任後、環太平洋経済連携協定(TPP)や地球温暖化問題に関する「パリ協定」からの離脱を相次ぎ表明してきました。UPUのケースは、中国側に対する不満を直接ぶつけるものでした。
UPUに加盟する国の郵便事業者は、重さや量に応じ、相手国側に料金を支払う仕組みがあります。ところが中国は経済大国になっても、新興国や発展途上国のような割安な料金のまま。特に軽量品の料金の差が大きく、アメリカは損失を被っているとの不満があります。
■歴史は繰り返すのだろうか
TPPやパリ協定も同じですが、「離脱」という短いニュースを見ているだけでは、アメリカ政府の狙いは見えてきません。その背景について書かれた新聞記事などを選び、しっかり読むことが大切です。そうした毎日の積み重ねが大事なのです。
第2次世界大戦後、当時のトルーマン米大統領は社会主義陣営に大きな影響力を誇示していたソ連の「封じ込め政策」を唱えました。米ソは連合国の一員だったのに、ソ連を放置していたら大変なことになると危機感をあらわにしたのです。
1947年の「トルーマン・ドクトリン」です。それから約40年後、米ソ首脳がその終結を確認するまで、世界は米ソ両陣営が対峙する「東西冷戦」に翻弄されました。冷戦後、核の脅威から解放されるはずだったのに、ここにきて再び危機が強まっています。
アメリカが旧ソ連と結んだ中距離核戦力(INF)廃棄条約を破棄することを表明したからです。トランプ大統領は「ロシアや中国が戦力を増強しており、アメリカだけが順守はできない」という理由でした。歴史は再び繰り返すのでしょうか。
いま、アメリカは自らの利益を最優先する政策「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を掲げています。以前、コラムで指摘しましたが、アメリカはそもそもこの価値観を持つ国でした。20世紀、2度の大戦の惨禍を体験し、多くの国々が重視してきた国際協調が揺らいでいます。
日本の新聞やテレビ、ときには海外発ニュースに触れてください。世界史は、現代のニュースを理解する上で欠かせない知識です。
日本は第2次大戦後、アメリカ中心の資本主義陣営の一員として復興を遂げました。強大なアメリカの軍事力の下で経済を立て直すことができたのです。いま、日本とアメリカは同盟関係といいますが、今後の外交は順風満帆とはいかないでしょう。
グローバル時代を理解し、生き抜くということは、時代の行方を自らの頭で判断できるようになることだと思います。その答えは人工知能(AI)が探してくれるわけではありません。まずは君たち自身が考え、浮かび上がってきた問題意識にかかっているのです。
[日経電子版2018年11月05日付]
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